コラム 19 みんなで街をきれいに!~セルビアで三民族一緒に~
2,000人の子どもたちは大きな声で歌いました。「ブヤノバツ、ブヤノバツ、わたしたちのおうち、みんなで歌い、みんな一緒の愛の町」。2009年2月にスタートしたセルビア南部のブヤノバツ市の清掃活動とワークショップは、可愛い子どもたちの喜びの歌声で盛り上がりました。アルバニア系、セルビア系、そしてロマ系の3つの民族の人々が混在して住むブヤノバツ市に、NGOの日本紛争予防センター(JCCP)が異なる民族が手をとりあって生きる新しい風を吹き込みました*1。
セルビアの南部に位置するブヤノバツ市はコソボ共和国との国境までわずか5キロメートルの地点にあり、人口は約6万人で、その60パーセントがアルバニア系、30パーセントがセルビア系、残り10パーセントがロマ系その他の民族で構成されています。市内の小学校はアルバニア系が2校、セルビア系が1校、高校はアルバニア系、セルビア系、それぞれ1校です。生徒たちは、それぞれ自分たちの民族の言葉で授業を受け、学校間でも生徒間でも交流のない状況でした。そこでJCCPは、日本政府の協力を得て異なる民族が交流する事業に取り組みました。
清掃活動にあたっては、市の公衆衛生局と3つの小学校が、日程、場所、方法について前もって打ち合わせ、何よりも3つの民族の子どもたちが安全に、そしてお互いに協力して手際よく作業を進められるようにと工夫しました。公園、バスの停留所、市場、学校周辺と街はしだいにきれいになり、今では公園は紙くず一つなく美しい花と緑の芝生でおおわれています。
ワークショップでは、毎週3校が交代で他校の子どもたちを受け入れて交流を行っています。当番の学校の子どもが担当の教師と共に、絵画、歌、折り紙、遊戯などに必要なものを準備します。最初は言葉の違いもあり、また、いたずらっ子が他民族の子どもを困らせる場面もありましたが、次第に子どもたちが、民族の別なく自然に混ざり合って大きな画紙に絵を一緒に工夫して描いたり、日本の童謡、3つの民族の歌を仲良く合唱して楽しむ場となっています。
ワークショップでは、日本の「証城寺(しょうじょうじ)の狸ばやし」も歌います。歌を指導したのはこのプロジェクトの代表を務める松元洋(まつもとひろし)さんです。子どもたちには輪になって、子狸がおなかを突き出しているところを想像してもらい、実際におなかをたたいて歌い実演すると、部屋には割れんばかりの大きな笑い声が起こりました。松元さんは、「子どもたちを対象としたプロジェクトを長く続けるためには、清掃にしろ学習にしろ、いつも子どもが楽しむことが大事です」と言います。
清掃活動とワークショップの様子は多くの写真に収められ、子どもたちの描いた絵といっしょに街の広場、市役所、公民館などに展示されました。学校の壁にも貼り出されています。子どもたちが、和気あいあいとゴミ集めに走り回る光景をみて、市内にある3つの企業が公園や道路わきに花を植えはじめました。小さな子どもたちが大人のこころを揺り動かしたのです。
こうしたブヤノバツ市の様子から、松元さんは、「JCCPとしても出来るだけ長期にわたり、定期的にブヤノバツ市を訪問し、実施状況を見ていきたいと思います。」と民族の間の壁が取り払われつつあるブヤノバツ市を長く見守り続けようとしています。
子どもたちのこうした絶え間ない活動が、過去の紛争から生まれた異民族間の憎しみや不信を取り除きつつあります。アルバニア系、セルビア系、ロマ系の3つの民族が、花に彩られた美しいブヤノバツ市で仲良く暮らしていく気運が生まれています。
*1 : 日本NGO連携無償資金協力「異なる民族間の交流促進/ブヤノバツ市小学生による共同清掃事業」
ワークショップでの松元代表(写真提供 : 松元さん)
清掃事業の様子(写真提供 : 松元さん)