コラム 18 工事の成功を導いたひたむきさ~ソロモンでの橋梁架け替え~

青い海と白い珊瑚礁がきらめく南太平洋には、ちりばめた宝石のように多くの島嶼国があります。美しい自然に彩られたこれらの国々ですが、地球規模で進む温暖化や気候変動の脅威にさらされている上に、経済的な困難も抱えています。日本はこの歴史的にもつながりのある太平洋の国々との対話や協力を重視し、2009年5月には北海道占冠(しむかっぷ)村トマムで第5回太平洋・島サミットを開催しました。ここではこのサミット参加国の一つであるソロモン諸島での日本の協力を紹介します。

ガダルカナル島は、1,000を数える島から成るソロモン諸島のなかで最も大きな島で、同国の中心地です。島を走る幹線道路に架けられた橋は英国統治時代のもので、1978年の独立後は架け替えられることがなく老朽化し、とても危険な状態でした。2006年、日本はソロモン政府の要請を受け、これらの橋の架け替えの協力を始めました。この協力を担った日本人の一人が北野建設株式会社の中野慶久(なかのよしひさ)さんです。中米での漁業基地建設を含め土木工事全般の経験があった中野さんですが、ソロモンでの工事を進めるにあたり、様々な問題に直面しました。

ガダルカナルの降雨量の多さは橋の工事を指揮する中野さんを悩ませました。「雨の少ない乾季に、架け替える3つの橋の基礎部分から橋げたまでの工事を行いたかったのですが、異常気象により7回もの集中豪雨があり、その度に工事をやり直さざるを得ませんでした。また、豪雨による水没や資材の流失などで工期の遅れを取り戻すのに大変苦労しました。」中野さんは自然の厳しさに合わせて進めていく工事の難しさをふり返ります。

150人の作業員はソロモンの人々でしたが、彼らは、例えばノコギリを押して切るなど工具の使い方から始まり、また工事の進め方が日本と異なっています。「効率的な工事には段取りが重要です。これをソロモンの人々にどれだけ伝えられるかに工事の成功がかかっていました。」と中野さんは言います。工事の段取りや進み具合の管理などについては関係者全員が知っている必要があります。ソロモンでは以前からフィリピン人が働いていますが、彼らを通じてこうした日本式の工法をソロモンの人々に伝えることにしました。この方法のおかげでソロモンの人々の間にも徐々に日本の工法が伝わっていきました。こうして3つの橋の工事は効率良く進みました。中野さんは「日本式工法をマスターし、ひたむきに頑張るソロモンの人々にはたくましさを感じると共に感謝しています。」と言います。

完成した3つの橋では、車の重量制限が20トンから60トンへ、通行速度も時速10kmから50kmまで大幅にアップし、島民の生活を大きく変えています。タンクローリーを運転するサイモンさんは「以前は橋が危険だったために軽い小型トラックしか使えませんでしたが、今は重いタンクローリーでも一気に運べます。輸送がとても楽になりました。」と喜んでいます。また、毎日島の中央市場に野菜や果物を運ぶある島民は「こんなにも安全にスムーズに通行できるなんて夢のよう。生活も仕事も、とても楽になりました。」と笑顔を見せていました。

三つの橋の架け替えは、島のより多くの人々を結びつけました。島内の往来が活発になった今、ソロモンの人々の生活や経済の更なる発展へとつながることが期待されます。

基礎工事を行う作業員

基礎工事を行う作業員(写真提供 : 中野さん)

朝礼で段取りを確認する関係者

朝礼で段取りを確認する関係者(右から3人目が中野さん)(写真提供 : 中野さん)


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