コラム 17 ともに苦労し、良い技術を~メキシコでの金属プレス加工支援~

2009年から2010年にかけては日本メキシコ交流400周年です。日本人とメキシコ人が千葉県御宿で出会って以来、両国は交流を続け今日まで友好的な関係を築いてきました。メキシコは世界でも有数の石油や銀などの産出地で、その豊富な天然資源を背景に経済成長を遂げています。

メキシコは日本にとって米州への輸出を強化するための拠点でもあり、日本の自動車、電機・通信機器などの大手メーカーの工場があります。このように経済が大きくなりつつあるメキシコですが、製造工場が必要とする部品をつくる中小企業などの裾野産業が育っておらず、その多くを海外からの輸入に頼っているため、金属材料などの部品を作る産業の育成が課題となっています。こうした産業の育成は雇用創出になり、メキシコが抱えるアメリカなどへの出稼ぎ問題の解消にもつながります。

日本はメキシコのこのような課題への取組にも協力しています。メキシコの金型プレス加工技術は金属材料の多くを輸入に頼っていることもあり、メキシコ産のものを含め規格がそろわない他、プレス加工が安定しなかったり、プレス操作に伴う事故や災害などが問題となったりしていました。日本は1997年から、金属プレス加工技術の専門家をメキシコに派遣しています。その中の一人、栗原昭八(くりはらしょうはち)さんは、プレス加工技術を通じて10年以上メキシコと関わっています。

栗原さんは群馬県で生まれ育ち、1950年に学校を卒業してから、金属プレス加工のエンジニアとして活躍してきました。大手メーカーを皮切りに、韓国での技術協力、そして1989年からはJICAの専門家として東南アジア各国で日本の金属プレス加工技術の普及とその技術の向上に協力してきました。そして1990年代後半以降からメキシコとも関わるようになりました。7回にわたる短期のメキシコへの派遣を経て、2006年からは3年間の予定でメキシコ市北方約200kmにあるケレタロ市にある研究機関の産業技術開発センター(CIDESI)に派遣されています。

CIDESIの一員として、栗原さんはケレタロ市の中小企業への訪問や窓口相談、セミナーなどを通じ金属プレス加工技術や正しいプレス機械の使用法の普及につとめています。栗原さんはCIDESIのメキシコ人スタッフについて、「はっきりとした理由と根拠のない経験話は受け入れず、科学的で再現性のある技術の話に興味を示します。」とその熱心な態度に感心して言います。技術への認識の高いメキシコ人技術者の期待に栗原さんは専門家としてよく応え、メキシコ側からは、普及したプレス技術が金属材料の製造の安全性や生産性に役立ったと評価を受けています。また、栗原さんはプレス技術用語のスペイン語訳にも力を注ぎ、今後のプレス技術の普及を見据えて技術用語の編集にもメキシコ人技術者とともに取り組んでいます。このような活動では「メキシコの人々とともに苦労した。」と栗原さんは言います。「様々な活動でともに苦心したことがメキシコの人々との絆になり、良い関係を築けました。」とも振り返ります。さらに、栗原さんは、メキシコ人の同僚と共に先端的な金属プレス加工機械の実現を目指し、その開発に取り組んでいます。ともに苦心を重ね、常に良いものを一緒に作る努力を日々続けています。

ケレタロ市でセミナーをする栗原さん

ケレタロ市でセミナーをする栗原さん(写真提供 : 清水宏祐さん)

プレス機械の組み立てを指導する栗原さん

プレス機械の組み立てを指導する栗原さん(写真提供 : 清水宏祐さん)


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