コラム 15 早く、安く、簡単、安全に畑に水を!~マラウイの手作りかんがいプロジェクト~

アフリカ南部の国マラウイでは、雨季の雨水に頼った農業が行われてきました。マラウイでは、雨季の収穫が得られる前には食料が不足しがちになり、特に日照りのひどい年には多くの農民が苦しんできました。このように雨季と乾季によって食料の確保が大きく異なり、不安定なマラウイでは、主食であるメイズを乾季でも生産できるようにすることが重要です。そこで、かんがいを通じて乾季のメイズ栽培を実現し、農民が安定的に食料や収入を確保できることを目指し、日本による小規模かんがい開発プロジェクトが2006年から開始されました。

このプロジェクトのマラウイ側の担い手の一人が、農業普及所長ンコマさんです。ンコマさんは、これまで日本の青年海外協力隊がマラウイで行った園芸技術のプロジェクトに7年間携わったり、日本での研修にも参加したことから、日本に親しみを感じていました。

2008年5月、そのンコマさんにこの日本の小規模かんがいプロジェクトへの異動が命じられました。果樹栽培などの経験はありましたが、水路などを引き、耕地をうるおすなどのかんがい事業は経験がなく、不安ではありましたが、かつて日本人とかかわった経験から「日本人は時間に厳格で働き者である」ということを知っていたため、この異動を喜びました。こうしてンコマさんは、このプロジェクトに派遣されている日本人と一緒に働くことになったのです。

これまでかんがいには、多くのお金と難しい技術が必要とンコマさんは考えていました。ところが、このプロジェクトのモットーは「早い、安い、簡単そして安全」です。研修を受けた翌日からすぐに使える技術を教えます。材料も、簡単に手に入る木、竹、石、草、粘土を使います。かんがいに適した場所、水路などの作り方を絵などを使ってわかりやすく、時に紙芝居などで教えます。田畑に水を送る水路や堤をつくるだけではなく、その後の管理や補修も農民自身による自助努力を促します。こうした一連の活動は農民自身が結成する“かんがいクラブ”によって行われます。プロジェクトから、コンクリートなどの資材の援助は一切なく、こうしたことがかえって農民の持続的な自助努力を引き出すと、現在のンコマさんは考えています。

このようなンコマさんの取組の結果、これまで農作物がとれなかった乾季にも農業収入が得られるようになりました。こうした収入は、それに続く雨季にも収入が不足する場合や、乾季と雨季の間で作物が取れないことから来る農作物などの価格の上昇の際にも農家を助けます。

JICA専門家としてマラウイでこのプロジェクトを進めている岡田さんや白石さんは「私たちのプロジェクトを任せられる人」とンコマさんを評価します。

ンコマさんは「私たちがかんがいの技術を普及した農家の人々が、それぞれ独自に工夫しているのを見て、農家の潜在能力に驚きます。私たちも農家に負けないように技術を発展させ、より多くの面積でのかんがいを実現し、マラウイの食料増産に貢献したいと思います。」と熱い思いを語っています。

家に説明するンコマさん

農家に説明するンコマさん(右端)(写真提供 : JICA

水路をつくる村人

水路をつくる村人(写真提供 : JICA


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