コラム 13 信頼される市民警察を目指して~インドネシアの女性交番~
「バパッ・アグス、スラマッ・パギ。アパ・カバール?(アグスさんおはようございます。ご機嫌いかがですか)」と女性警察官のサプテさんが住民のアグスさんに声をかけます。ここは、インドネシアの首都ジャカルタ近郊にあるブカシ地区ムカール・サリにある女性交番です。この交番は女性警察官のみが勤務しており、インドネシア独自のものです。警察が軍の一部だった警察軍時代のイメージとは打って変わり、ソフトな対応に住民から親しまれています。「交番*1が設置されてから、遠方の警察署まで行く必要が無くなり、便利になりました。また、優しい女性警察官が巡回連絡のために自宅を訪問してくれるほか、街頭で声をかけてくれるなど、安心して生活ができるようになりました。」とは住民の声です。
インドネシアでは、2000年8月の国民協議会の決定により、警察が国軍から分離独立し、治安維持は国家警察が担うことになりました。現在、インドネシアの警察はより市民に信頼されるように、さまざまな改革プログラムを行っています。日本は2002年より、このようなインドネシアの取組に協力しています。首都のジャカルタ警視庁に対しては組織運営、現場鑑識、通信指令そして交番活動を支援しています。日本の大阪府警察出身の松江さんは、これまで外国人対策関係の仕事に長く携わり、その知識、経験を活かして日々協力活動を行っています。
松江さんは日本の協力について「日本の警察では、各都道府県警察の警察署管轄地域内に交番あるいは駐在所が配置されています。日本全国どこにでも担当地域の安全と安心に責任を持つ制服の地域警察官が必ず勤務していることが、『交番』制度の特色です。この日本の経験と制度をインドネシアの目指す市民から信頼される警察の実現のために活かせればと考え、インドネシアでも「交番」が実現したのです。女性だけの交番はインドネシア側からの提案で、日本でも実現できていない、かなり思い切った施策ではありますが、インドネシアにおける女性の社会的活躍を背景にした、素晴らしいアイデアだと思います。」と語ります。
こうした日本の協力の中から、インドネシア警察では警察官の「三交代制勤務」や「受け持ち区域」制度が取り入れられました。それぞれの警察官はパトロールや、受け持つ地域と住民を安全にするための巡回連絡を計画的に行うようになりました。そしてこのような市民に親しむ警察の拠点として交番を設置しました。
この中でも評判の良いのが冒頭のムカール・サリにある交番です。ソフトな対応に加え、住民が気軽に届出や相談をしやすい交番を心がけています。その親しみやすさから、住民からは、「警察官とコミュニケーションをとるようになり、安心して生活ができるようになりました。」といった声があがっています。この交番ができてから3年半、住民との良い関係の中で大きな事件は発生せず、警察と市民が協力する交番連絡協議会もできました。この協議会ができたことにより、今では住民と共同でのパトロールや、地域の問題を解決するための話し合いをしています。
こうした動きを受け、ブカシ地区のある地域では篤志家(とくしか)が中心となり、もともとインドネシア警察にあった警察官立ち寄り所を発展させ、やはり女性だけの交番を新設し、ムカール・サリ交番と全く同様の活動を行っています。日本の支援とインドネシアの努力が一体となった、住民に信頼される警察活動の発展が期待されます。
*1 : BKPM(インドネシアの交番)
立番中の女性警察官
指導中の松江専門家