コラム 8 安定した社会をめざして~カンボジアの法制度整備支援~

近年、カンボジアは急速な経済成長を実現し、昨今の世界金融危機の影響を受けながらも、着実な発展を遂げています。カンボジアの首都プノンペンでは、車やバイクがせわしなく走り、街は喧騒に満ちています。クメール・ルージュ(ポル・ポト派)の虐殺や地雷など、暗い過去がありましたが、人々はそれを乗り越えて発展していこうという前向きさにあふれています。

1970年代のクメール・ルージュ政権により、原理的な社会主義が提唱され、それまでの価値観は全て否定されました。多くの知識層が虐殺されたことにより、国家機能は著しく停滞しました。司法分野もその一つであり、法律自体が廃止されていました。日本は、カンボジアの要請に基づき、1999年よりカンボジアの法制度整備支援を行っています。この支援にはカンボジア司法省に対する「法制度整備プロジェクト」、裁判官・検察官養成校に対する「民事教育改善プロジェクト」、そして弁護士会に対する「弁護士会司法支援プロジェクト」の3つのプロジェクトが含まれています。カンボジアでは、日本が起草支援した民事訴訟法が2006年7月に成立し、翌年7月に施行されており、12月には民法が成立しました。このように、法律自体は出来上がったのですが、いまだ法曹や行政官の法律の理解度が低く、現在の日本の支援は法律の普及に重点を置いています。

この中でも、カンボジアの将来の法曹を教育する裁判官・検察官養成校では、日本の法務省から現役の検察官、建元亮太(たてもとりょうた)氏が専門家として派遣されており、きめの細かい支援がされています。プロジェクトが始まったのは、今から4年前、2005年11月です。当時は専門家自身が直接学生に民法・民事訴訟法の講義を行うことが多かったのですが、現在では,近い将来教官になると見込まれる卒業生(「教官候補生」)のみに講義をし、その候補生が学生に講義をするというスタイルをとり、学校側の自立を促しています。当初は日本の専門家に頼ることの多かった学校側も、2008年から積極的に教官候補生を活用するようになり、同年度前半の全授業がカンボジア人の教官と教官候補生によって行われました。多忙を極める教官の代わりに、教官候補生が授業を担当することも多く見られるようになり、候補生たちも授業の準備を通してより理解を深めている様子です。「候補生たちの成長と活躍が頼もしい」と同専門家は語ります。

また、この養成校では、法曹の卵だけではなく、現職裁判官に対する継続教育も行っています。このとき、建元専門家の目に留まった一人の裁判官がいました。彼は自分が対象となる講義以外にも繰り返し講義に参加しており、専門家が聞いたところ、「前回の講義では質疑応答があり、充分な説明を聞けなかったので、今日も参加してみた」との返事が返ってきたそうです。現職裁判官が日本が支援した民法・民事訴訟法の講義を受ける機会は限られており、それを最大限活用したいという受講生側の意気込みが感じられたときでした。彼らのためにも、現在プロジェクトで作成中の教材を早く完成させたい、と同専門家は思いを新たにしています。

司法分野に対する支援は、息の長いきめの細かい配慮が必要です。今後も司法という視点を通じてカンボジアを見つめていきたいと同専門家は感じています。

建元専門家による教官候補生へのトレーニング

建元専門家による教官候補生へのトレーニング(写真提供 : JICA

RSJP(裁判官・検察官養成校)の卒業式

RSJP(裁判官・検察官養成校)の卒業式(写真提供 : JICA


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