コラム 6 産業発展のために企業努力を促す~現職参加シニア海外ボランティアの活躍 ― セントルシア ― ~

どこまでも真っ青な海と空、白い砂浜、緑濃い島影、爽やかな風に乗って遠くから聞こえてくるスティールパン*1の調べ。セントルシアはカリブ海東端の諸島の中ほどに位置する、人口僅か17万人、淡路島ほどの大きさの島国です。大航海時代の昔から、植民地として英国とフランスの間を7回も往復し、1979年に英国から独立を果たしました。

辻井嗣直(つじいつぐなお)さんは、かつての同僚からシニア海外ボランティアの話を聞き、興味を持っていました。募集のあったセントルシアへの赴任を希望し採用され、勤め先のKDDIが導入した現職参加制度による第一番目のシニア海外ボランティアとして赴任しました。

日本から遠く離れたセントルシアですが、JICAから20名近くのボランティアが派遣されており、その国の人口に比べ派遣人数の多い国の一つです。ボランティアには教員あり、理学療法士あり、また、その活動も音楽指導、森林管理、スポーツ普及など様々です。

辻井さんはセントルシア政府の通信省に配属され、通信政策のアドバイザーとなりました。仕事仲間はオーガスティン公益事業部長とカウンターパートであるエンジニアのペリーさんの二人です。ペリーさんは優秀なエンジニアである一方、7月のカーニバルが近づくとフリルのついた衣装を自分でデザインし、縫って作ってしまうほど器用で、カーニバルバンドのリーダーでもありました。

セントルシアは固定電話の普及率が低く、インターネットや携帯電話の価格が高いなど、通信市場が活性化されていないという問題がありました。このような問題を解決するために、セントルシア政府は近隣の4か国と協力して規制を緩和し、新しい通信会社の市場への参入を促す法律を作りました。この動きを受けて、携帯電話などの値段は下がったものの、結局一時的なものでした。

このような状況を見て「企業努力を引き起こす市場の活性化を促すのが自分の役割だ。」と辻井さんは思い、例えば、規制緩和に関する意見を述べるなど様々なアドバイスを行い、セントルシアの通信省担当者は、このようなアドバイスが、彼らの政策形成に少からず影響を与えたと述べています。

また、競争による価格の低下や、新しく開発された技術が利用者を増やし、会社側にも安定した市場を提供する実例として、辻井さんは「日本の携帯電話“競争”小史」を書きました。「企業努力を促すことが産業の発展のためには重要です。」と辻井さんは言います。

また、時を同じくして、世界的に起こっていた通信業界の競争の波がセントルシアにも及んでおり、その結果、インターネットの料金が半額になったり、新しい機能の付いた携帯電話が売り出されるようになりました。

辻井さんは、「料金が安くなったり、サービスが良くなるように企業努力を促すのであれば、市場に競争が起こることは良いことです。」と言います。

通信市場が活性化されつつあるセントルシアで、辻井さんの思いが実を結ぶことが期待されます。


*1 : ドラム缶から作られた音階のあるカリブ独特の打楽器

通信省メンバーとの会議

通信省メンバーとの会議(右から辻井さん、オーガスティン部長、左端がペリーさん)(写真提供 : 辻井さん)

セントルシア通信省

セントルシア通信省(写真提供 : 辻井さん)


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