コラム 2 学校がやって来た!~エジプトの「動く学校」~
「ここには勉強するためのものがみんなそろっている。」数時間前まで路上で物売りをしていた少年が微笑みました。彼らが授業を受ける場所、それは私たちがイメージするような学校とは少し異なります。黒板や机、椅子が取り付けられた一台のバス、それが彼らにとっての教室なのです。この「動く学校」は、日本の協力*1で実現したもので、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))、エジプト政府が協力して運営しています。
エジプトは、近年着実な経済成長をとげていますが、とり残されている貧しい人々が増えている現実もあります。生きるために働かざるを得ない子どもや家庭内の事情により路上で暮らすことを余儀なくされている子どもの数は、エジプト国内で100万人以上に上ると言われますが、そのほとんどの子どもたちは学校に行くことができません。こうした問題に対し、エジプト政府、UNESCO、NGOなどが協力し学校以外の場所でストリート・チルドレンなどに授業を行うフレンドリー・スクール事業を始めました。
「動く学校」はこの事業の一つで、その実現に一役かったのがUNESCOカイロ事務所の守屋美夏子(もりやみかこ)さんです。過去にも青年海外協力隊員としてエジプトで働いた経験があり、アラビア語にも堪能な守屋さんは、日本大使館、UNESCO、そしてエジプト政府の間を走り回り、このプロジェクトの内容、資金などについて関係者と話し合いました。そして教材などはUNESCO、先生やスタッフはエジプト政府とNGO、そして教室であるバス、「動く学校」の校舎、教室の機材については日本からの協力を得ることができました。
「動く学校」となるバスの企画段階で、守屋さんはバスの車体には七色の虹を描こうと思いいたりました。「子どもたちは、虹の美しさに引きつけられてバスに乗ってくれるだろうと思ったのです。」と振り返ります。願ったとおり、子どもたちは「動く学校」に集まってきました。今では8歳から14歳の学校に通ったことのない子どもたちが、毎週学校が自分たちの近くにやって来るのを待ちわびています。
「動く学校」では普通の小学校と同じ教科を教えるほか、働かなければならない子どもたちのためにはた織り、木工の技術なども教えます。こうしたきめの細かい授業のおかげで自信を得た子供たちは、「将来何になりたい?」と聞く守屋さんに、それぞれ「先生になりたい!」「お巡りさんなる!」「女優が夢!」と目を輝かせてこたえたそうです。
守屋さんは、「エジプトの人たちがいかに『動く学校』を自分たちのものにしていくかということに気を配りました。」と言います。エジプト、UNESCO、日本の関係者が一体となって仕事を進められるように守屋さんは連絡調整に走りました。また、内外のメディアの取材により、「動く学校」の取組が評価されていることにエジプトの関係者に気付いてもらうように工夫し、さらにやる気を出してもらうよう励まし続けました。
「動く学校」が順調に動き出している今、守屋さんは、「子どもたちの心に希望の虹がかかるよう少しでも多くの子どもたちを『動く学校』などの取組を通じ支援していきたい。」と明るく話します。
*1 : 草の根・人間の安全保障無償資金協力
「動く学校」内での子どもたち(中央右が守屋さん)
守屋さんのデザインによる「動く学校」