2.政府開発援助に関する中期政策

1.中期政策の位置付け

(1)平成15年8月に閣議決定により改定された政府開発援助大綱(以下、ODA大綱)は、「この大綱の下に、ODA 中期政策や国別援助計画を作成し、これらにのっとったODA政策の立案及び実施を図る」こととしている。ま た、旧ODA中期政策は、旧ODA大綱の下で平成11年8月に策定されたものであり、策定後5年が経過してい る。これらを踏まえ、今般、ODA中期政策を抜本的に見直し、ここに新たな中期政策(以下、新ODA中期政 策)を策定する。

(2)ミレニアム開発目標(MDGs)、地球的規模の問題を始めとする開発課題への取組を進めるとともに、多発する紛 争やテロを予防し、平和を構築することは、国際社会が直ちに協調して対応を強化すべき問題である。また、我 が国と密接な関係を有する開発途上国との経済連携の推進等を通じ、これら諸国の持続的成長を図ることは 重要な課題である。このような国際社会の直面する喫緊の課題への取組において、我が国としては、ODA大綱 がODAの目的を「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資すること」と 位置付けていることを踏まえ、戦略的かつ効率的なODAの活用を通じて、我が国の地位にふさわしい役割を 果たす考えである。

このような考え方に基づき、新ODA中期政策では、ODA大綱のうち、考え方や取組等を内外に対してより具 体的に示すべき事項を中心としたものとし、ODA大綱の基本方針の一つである「人間の安全保障の視点」、重 点課題である「貧困削減」、「持続的成長」、「地球的規模の問題への取組」、「平和の構築」、そして「効率的・効 果的な援助の実施に向けた方策」を取り上げ、我が国の考え方やアプローチ、具体的取組について記述し、大 綱にのっとってODAを一層戦略的に実施するための方途を示す。

(3)国別援助計画の策定に当たっては、ODA大綱に加え、大綱の内容を更に具体化した新ODA中期政策を併 せて踏まえることとする。なお、新ODA中期政策における記載の有無は、ODA大綱に盛り込まれている事項自 体の重要性や必要性等を変更するものではない。新ODA中期政策は向こう3〜5年を念頭に置き、国内外の 情勢を踏まえつつ、それ以前にも必要に応じ、実施状況を評価した上で改定することとする。

(4)ODAに対する国民の理解と支持を得るためにも、我が国ODAに関し、十分な透明性を確保するとともに積極 的に広報し、援助活動への国民参加を促進することとする。また、評価を充実し、効果的な援助の実施に努め ていく。

2.「人間の安全保障」の視点について

(1)「人間の安全保障」の考え方

  1. (イ)近年、グローバル化の深化により、国際社会はこれまでにない緊密な相互依存関係を持つようになった。しかし、 同時に、テロや環境破壊、HIV/エイズ等の感染症、国際組織犯罪といった国境を越えた脅威、突然の経済危 機や内戦などによる人道上の危機が増大している。これらに対応していくにはグローバルな視点や地域・国レベ ルの視点とともに、個々の人間に着目した「人間の安全保障」の視点を導入する必要がある。
  2. (ロ)「人間の安全保障」は、一人一人の人間を中心に据えて、脅威にさらされ得る、あるいは現に脅威の下にある個人及び地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目指す考え方 である。具体的には、紛争、テロ、犯罪、人権侵害、難民の発生、感染症の蔓延、環境破壊、経済危機、災害 といった「恐怖」や、貧困、飢餓、教育・保健医療サービスの欠如などの「欠乏」といった脅威から個人を保護し、 また、脅威に対処するために人々が自らのために選択・行動する能力を強化することである。
  3. (ハ)我が国としては、人々や地域社会、国が直面する脆弱性を軽減するため、「人間の安全保障」の視点を踏まえな がら、「貧困削減」、「持続的成長」、「地球的規模の問題への取組」、「平和の構築」という4つの重点課題への取 組を行うこととする。

(2)「人間の安全保障」の実現に向けた援助のアプローチ

「人間の安全保障」は開発援助全体にわたって踏まえるべき視点であり、以下のようなアプローチが重要である。

(イ)人々を中心に据え、人々に確実に届く援助

支援の対象となっている地域の住民のニーズを的確に把握し、ODAの政策立案、案件形成、案件実施、モ ニタリング・評価に至る過程でできる限り住民を含む関係者との対話を行うことにより、人々に確実に届く援助を目 指す。そのために様々な援助関係者や他の援助国、NGO等と連携と調整を図る。

(ロ)地域社会を強化する援助

政府が十分に機能していない場合には、政府の行政能力の向上を図るとともに、政府に対する支援だけでは、 援助が人々に直接届かないおそれがあることから、地域社会に対する支援や住民参加型の支援を組み合わせ る。また、地域社会の絆を強め、ガバナンス改善を通じて地域社会の機能を強化することにより、「欠乏」や「恐怖」 から地域社会の人々を保護する能力を高める。

(ハ)人々の能力強化を重視する援助

人々を援助の対象としてのみならず、自らの社会の「開発の担い手」ととらえ、自立に向けての能力強化を重視 する。具体的には、人々を保護し、保健、教育など必要な社会サービスを提供するだけでなく、職業訓練等を通 じて生計能力の向上を図り、さらに、人々の能力の発揮に資する制度、政策を整備して、人々の「自立」を支援す る。

(ニ)脅威にさらされている人々への裨益を重視する援助

「人間の安全保障」の視点を踏まえた援助では、貧困を始めとする「欠乏からの自由」と紛争のような「恐怖か らの自由」の双方を視野に入れ、人々が直面している脅威に対して、可能な限り包括的に対処していく必要があ る。

また、その際、生命、生活及び尊厳が危機にさらされている人々、あるいはその可能性の高い人々がどこに分 布し、何を必要としているのかを把握した上で重点的に援助を実施する。

(ホ)文化の多様性を尊重する援助

人々が文化的背景のために差別されることなく、文化の多様性が尊重される社会の形成を支援する。また、 文化の名の下に個人の人権や尊厳が脅かされないように配慮する。

(ヘ)様々な専門的知識を活用した分野横断的な援助

貧困や紛争が発生する国々では、人々が直面する問題の構造は極めて複雑である。これらの問題に対処するためには、問題の原因や構造を分析し、必要に応じて様々な分野の専門的知見を活用して、分野横断的な 支援を実施する。

(注)「人間の安全保障」の視点を理解する上で参考となる案件例を、本文末の附属に示した。なお、「人間の安全保 障」の視点を踏まえた案件は、これらに限られるものではなく、今後ともその反映に努力していく。

3.重点課題について

重点課題に取り組むに当たっては、ODA大綱の基本方針である開発途上国の自助努力(オーナーシップ)支援、 「人間の安全保障」の視点、ジェンダーの視点や社会的弱者への配慮を含めた公平性の確保、政策全般の整合性 の確保を含めた我が国の経験と知見の活用、南南協力の推進を含めた国際社会における協調と連携を踏まえる。

(1)貧困削減

(イ)貧困削減の考え方

a.
開発途上地域では、いまだに約11億人が1日1ドル未満の貧しい生活を余儀なくされている。このような状況に対 処するため、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットを経て、貧困削減、ジェンダー格差、保健、教育、 HIV/エイズを含む感染症の拡大防止、環境等について2015年までに達成すべき目標を盛り込んだミレニアム開 発目標(MDGs)が設定された。MDGsはより良い世界を築くために国際社会が一体となって取り組むべき目標で あり、我が国としては、その達成に向けて、効果的なODAの活用等を通じて積極的に貢献する。
b.
貧困は、単に所得や支出水準が低いといった経済的な側面に加え、教育や保健などの基礎社会サービスを受 けられないことや、ジェンダー格差、意思決定過程への参加機会がないことといった、社会的、政治的な側面も 有する。MDGsは、多くが教育・保健といった社会セクターに関する目標である。同時に、東アジアにおける開発 の経験が示すとおり、持続的な経済成長は貧困削減のための必要条件である。したがって、経済・社会の両側 面から包括的に貧困削減の達成を目指すことが必要である。
c.
それぞれの国の貧困を形成する要因は、その国の経済構造、政治、文化、社会、歴史、地理等の諸要因が複 雑に絡み合ったものであり、各国の個別状況を十分踏まえて支援することが必要である。この観点から、開発途 上国自身が策定する貧困削減戦略に貢献するとともに、その貧困削減戦略と整合性の取れた支援を行う。

(ロ)貧困削減のためのアプローチ及び具体的取組

a.発展段階に応じた分野横断的な支援

貧困は様々な要因を背景とし、また、貧困層の抱える問題は多様であることから、貧困削減に効果的に取り組 むためには、分野横断的な援助が必要である。そのために、案件形成に先立って、国や地域ごとに異なる貧困 事情の把握や貧困人口のニーズの分析に努める。貧困層にかかわる様々な情報収集のために、政府やNGO、 大学、研究機関、民間企業等とのネットワークを強化する。また、分析に基づき、有償資金協力、無償資金協力、 技術協力の二国間援助スキーム及び国際機関を活用した支援を国や地域ごとの事情や相手国の発展段階に 応じて効果的に組み合わせて実施する。

例えば、HIV/エイズ対策は、保健医療にとどまらない問題として、各種スキームを活用しつつ、セクター横断的 な対策を行う。具体的には、予防及び自発的カウンセリングと検査(VCT)の強化に重点を置くが、同時に、地域 保健医療システム全体の強化にも配慮する。また、ニーズに応じて感染者の雇用支援や、治療・ケア、感染者や 家族、エイズ遺児等への社会的支援も行う。経済活動の発展に伴う人の移動・集中によるHIV/エイズ流行の 危険性、児童や女性の人身売買、麻薬問題等に伴うHIV/エイズ感染リスクの拡大などを考慮し、必要に応じそれぞれの開発援助プログラムにエイズ対策を加えるよう配慮する。

b.貧困層を対象とした直接的な支援

貧困削減を図る上で、貧困層に焦点を当てた直接的な支援は重要な意義がある。その際、人間の安全保 障の視点から、貧困層や地域社会の能力を強化し、自らの生活に影響を与える援助政策の策定やプロジェクト の計画や実施段階において貧困層が参加できるようにすることが必要である。特に、草の根レベルで多様なニ ーズに応じた対応が可能なNGO等と協働していく。

(i)基礎社会サービスの拡充

貧困層の貧困状態からの脱出を可能とするためには、貧困層の生計能力を強化し、自らの生産的活動 を通じた収入確保を図ることが重要である。貧困層が裨益するような農産物市場や漁港、農道、灌漑施 設等の小規模な経済インフラを整備し、小規模金融(マイクロファイナンス)支援や貧困層を対象とした失業 プログラムを実施する。同時に、貧困層に対する技能訓練等、貧困層の能力開発を行う。

(ii)生計能力の強化

貧困層の貧困状態からの脱出を可能とするためには、貧困層の生計能力を強化し、自らの生産的活動 を通じた収入確保を図ることが重要である。貧困層が裨益するような農産物市場や漁港、農道、灌漑施 設等の小規模な経済インフラを整備し、小規模金融(マイクロファイナンス)支援や貧困層を対象とした失業 プログラムを実施する。同時に、貧困層に対する技能訓練等、貧困層の能力開発を行う。

(iii)突然の脅威からの保護

貧困層は経済危機、麻薬、犯罪等の社会問題や自然災害等に対して極めて脆弱であることから、こうし た脅威からの保護及び対応能力の強化が重要となる。そのために、貧困層を対象とした失業対策、栄養 改善プログラムや社会サービスの提供等の「セーフティー・ネット」の構築を支援する。2004年12月に発生した スマトラ島沖大地震及びインド洋津波災害を踏まえ、「防災協力イニシアティブ」に基づき、地震、津波を始 めとする自然災害に包括的かつ一貫性のある協力を行う。災害予防を国家政策、都市計画、地域計画に 反映・定着させる上で必要な政策提言や制度構築、人材育成及び計画の着実な実施を支援する。また、 災害発生後、被災者への支援が速やかに届けられるよう迅速な支援を実施するとともに、復興時において 災害と貧困の悪循環を断つことにより、貧困層の災害への脆弱性の緩和に努める。

c.成長を通じた貧困削減のための支援

貧困削減のためには、貧困層に対する直接的な支援と同様に、国全体あるいは貧困地域を含む地方全体の 経済成長を促進して貧困削減につなげるアプローチが重要である。特に、貧困層に裨益効果をもたらす成長と なるよう配慮する。

(i)雇用創出

就業を通じた所得の向上は、貧困層の生活水準を高めるための重要な手段である。このため、特に、労 働集約的な中小・零細企業育成を支援する。また、企業活動の基盤となる経済インフラ整備、零細企業の 参入・国内外からの投資を拡大するための制度改革及び労働環境整備を支援する。文化面の魅力を活用して観光の振興を図ることは雇用の創出にもつながる。

(ii)均衡の取れた発展

経済成長を遂げている国においても、地域間格差の問題が存在する。この格差は、多くの場合、貧しい 農村地域と比較的恵まれた都市部との間で生じている。農村地域の発展のためには、農業生産性向上 が重要であることから、農業関連政策立案支援、灌漑や農道等の生産基盤の強化、アフリカにおけるネリ カ稲など生産技術の普及及び研究開発、住民組織の強化を支援する。加えて、農村地域における農産物 加工、市場流通や食品販売の振興等の農業以外の経済活動の育成を支援する。

また、このような地域間格差が存在する都市部と村落地域を結びつける運輸、エネルギー、通信等の基 幹インフラを整備する。その際、幹線道路に農道を結びつける等の工夫により、基幹インフラが貧困層によ る経済・社会活動への参加に役立つよう配慮をする。

都市部においても、人口増加や村落地域からの人口流入などにより極めて貧しい地区が存在している。 労働集約的な中小・零細企業育成を支援し、特に都市部において小規模金融やその育成に資するような 技術協力を行う。

なお、貧困層は自然資源を直接生活の糧としている場合が多いこともあり、環境劣化により特に深刻な 影響を受けるため、成長を通じた貧困削減においては、特に持続可能な開発の視点に十分留意する。

d.貧困削減のための制度・政策に関する支援
  1. 貧困削減のためには、法の下の平等に基づき貧困層の権利が保障され、政治に参画し、自らの能力を発揮 できるようにする制度、政策の構築が重要である。そのため、人権の保障、法による統治、民主化の促進に 資する支援を実施する。
  2. 開発途上国政府が適切な開発戦略を策定し、実施できるよう能力向上を支援する。
  3. 経済危機やインフレーションなどによる貧困層への影響を回避する観点から、適切な財政・金融政策を通じ たマクロ経済の安定化は不可欠である。そのために、専門家派遣等を通じて政府関係者の能力強化を支 援する。

(2)持続的成長

(イ)持続的成長の考え方

a.
貧困を削減し、また、開発の成果を持続的なものとするためにも、開発途上国の持続的成長が不可欠である。 持続的な経済成長のためには、民間セクターの主導的な役割が鍵となることから、ODAによって、貿易・投資を 含む民間セクターの活動を促進することが重要である。加えて、ODAを通じて途上国の多角的自由貿易体制へ の参画を支援することも重要である。
b.
国際貿易の恩恵を享受し、資源・エネルギー、食料などを海外に大きく依存する我が国としては、ODAを通じて 開発途上国の持続的成長のために積極的に貢献する。このことは、我が国の安全と繁栄を確保し、国民の利 益を増進することに深く結びついている。
c.
持続的成長の阻害要因を国ごとに分析し、各国の個別状況及び発展段階に応じて経済社会基盤の整備、政 策立案・制度整備、人づくりを包括的に支援することが重要である。これらの包括的な支援を通じて各国の投資 環境の改善と経済の持続的成長を追求する。
d.
近年、各国間で進んでいる経済連携は、貿易・投資の自由化に加え、経済制度の調和を進めることにより、人、 モノ、カネ、情報の国境を越えた流れを円滑化し、関係国全体の成長に資するという重要な意義がある。我が国 は、東アジア地域を始め各国との経済連携の強化を進めているが、相手国のうち開発途上国に対しては、経済 連携を強化し、その効果を一層引き出すための貿易・投資環境や経済基盤の整備を支援するため、ODAを戦 略的に活用していく。

(ロ)持続的成長のアプローチ及び具体的取組

a.経済社会基盤の整備

民間セクターの活動を促進する上で、インフラは根本的な重要性を有する。我が国は、従来、経済成長の下 支えとなる経済・社会インフラの整備を円借款などを通じて積極的に支援し、アジア地域を中心に経済成長の基 盤整備に大きな役割を果たしてきた。経済・社会インフラ整備を促進するに当たっては適切な規模の中長期資金 が必要であること、また、十分な自己財源や民間資金の流入を確保し得る開発途上国がまだ一部に限られてい ることにも留意する必要がある。この観点から、途上国の制度政策環境や債務管理能力などに留意しつつ、道 路、港湾等の運輸インフラ、発電・送電施設、石油・天然ガス関連施設等のエネルギー関連インフラ、情報通信 インフラ、生活環境インフラといった貿易・投資環境整備等に資する経済社会基盤の整備を支援する。また、イ ンフラの維持管理と持続性の確保のため、インフラ整備への支援と併せて、分野ごとの課題に関する政策策 定・対話の推進、人材育成等、インフラのソフト面での支援も行う。

インフラ整備が幅広い地域や国境を跨いで裨益をもたらす場合もあることから、支援を行うに当たっては、地域 全体の発展という観点を考慮する。また、国境を越えた人・モノの移動の円滑化を確保する観点から保安上の 問題への対処能力向上や安全対策を支援する。開発途上国にとってのODA以外の資金の重要性にかんがみ、 民間資金及びODA以外の公的資金(OOF)との役割分担と連携や、民間セクターの参入等を図る官民パート ナーシップ(PPP:PublicPrivatePartnership)の構築を重視する。インフラの建設に当たっては、環境社会配 慮を徹底する。

b.政策立案・制度整備

経済社会基盤の整備に加え、マクロ経済の安定化、貿易や投資に関する政策・制度の構築、情報通信社会 に関する政策・制度整備といったソフト分野の支援は、民間セクターが牽引する持続的な成長を促進する上で不 可欠である。

マクロ経済の安定化に関しては、適切かつ持続可能な財政・金融政策、公的債務管理、経済政策の立案・ 実施に向けた支援を行うとともに、貿易・投資の拡大を見据えた産業政策、地方分権化を受けた地方振興策等 の立案に向けた支援を重視する。具体的には、財務管理、金融、税務、税関分野の制度構築、人材育成のた めの支援を行い、また、地場産業や裾野産業の振興を支援する。特に市場経済移行段階の開発途上国に対 しては、政策、制度構築、法整備、人材育成を含めた市場経済化支援を行う。

貿易・投資促進のための制度整備に関しては、各国の経済状況に配慮しつつ、政府調達、基準・認証制度、 知的財産権保護制度、物流網構築やその運用に向けた支援を含め、国際経済ルールにのっとった制度整備を 支援していく。汚職の撲滅、法・制度の改革、行政の効率化・透明化、地方政府の行政能力の向上は、民主的 で公正な社会の実現のためにも、また、投資環境の改善のためにも重要であることから、ガバナンス分野で政府 の能力向上を支援する。

c.人づくり支援

人づくりは、労働力の質的な改善につながるとともに、新たな技術革新を生み出す力ともなる。我が国の経済 発展の経験に照らしても、国の経済・社会開発や科学技術振興に必要な官民の人材育成が経済成長に果たした役割は大きい。したがって、開発途上国における基礎教育、高等教育及び職業訓練の充実に向けた支援 に加え、我が国の高等教育機関への留学生の受入れなどを通じた幅広い分野における人材育成のための支 援を行う。また、専門家の派遣や研修制度等を活用し、我が国の技術、知見、人材を活用して我が国の経験 を伝えつつ、中小企業振興や情報通信を含む産業発展を始めとする様々な分野における人材育成を支援する。

d.経済連携強化のための支援

地域レベルの貿易・投資の促進は、各国の経済成長に直接貢献するとともに、開発に必要な資金の動員や 民間セクターの技術水準向上等に寄与する。このため、国や地域に跨る広域インフラの整備を行うほか、貿易・ 投資に関連する諸制度の整備や人材の育成を積極的に支援する。我が国が経済連携を推進している各国・ 地域に対しては、知的財産保護や競争政策等の分野における国内法制度構築支援や、税関、入国管理関連 の執行改善・能力強化支援、情報通信技術(ICT)、科学技術、中小企業、エネルギー、農業、観光等の分野 における協力を行う。

(3)地球的規模の問題への取組

地球温暖化を始めとする環境問題、感染症、人口、食料、エネルギー、災害、テロ、麻薬、国際組織犯罪といった 地球的規模の問題は、国境を越えて個々の人間の生存にかかわる脅威である。国際社会の安全と繁栄を実現する ために、我が国はODAを用いて積極的に貢献する。中期政策では、これらの地球的規模の問題のうち、特に貧困 削減と持続的成長の達成に密接かつ包括的に関係する環境問題、及び2004年12月に発生したスマトラ島沖大地震 及びインド洋津波災害を踏まえ、地震、津波を始めとする自然災害への対応を取り上げる。

(イ)環境問題及び災害への取組に関する考え方

  1. a.環境と開発の両立を図り、持続可能な開発を進めていくことは世界共通の課題である。地球温暖化の進行、開 発途上国における経済成長に伴う深刻な環境汚染、人口増加や貧困を背景とした自然環境の劣化の急速な 進行などは、開発途上国の人々の生活の脅威となっている。これら環境問題の解決のためには、広範にわたる 一貫した取組が必要である。また、地震や津波などによる災害は、発生直後の被害のみならずその後も人間の 生存や社会経済開発を脅かす問題であり、その対応のためには開発途上国の自助努力を支援するとともに緊 急対応、復興、予防の各段階に応じた包括的かつ一貫性のある取組が重要である。
  2. b.我が国は、環境問題に対して、「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)」、「京都イニシアテ ィブ」などに基づき、また、災害問題に対して、「防災協力イニシアティブ」を踏まえて、ODAを活用して積極的に取 り組む。

(ロ)環境問題への取組に関するアプローチ及び具体的取組

①再生可能エネルギー、省エネルギーといった温室効果ガスの抑制・削減(京都メカニズム活用のための支援 を含む。)、気候変動による悪影響への適応(気象災害対策を含む。)などの「地球温暖化対策」、②大気汚染対 策、水質汚濁対策、廃棄物処理などの「環境汚染対策」、及び、③自然保護区の保全管理、森林の保全・管理、 砂漠化対策、自然資源管理などの「自然環境保全」の3つを重点分野として、以下のアプローチ及び具体的取 組により協力を推進する。

a.環境問題への取組に関する能力の向上
各国の実情に応じ、開発途上国の関係当局や研究機関などの環境問題への取組に関する能力を総合的に 高めるため、人材育成支援を推進するとともに、的確な環境監視、政策立案、制度構築、機材整備などに対する協力を行う。
b.環境要素の積極的な取り込み
我が国が策定する開発計画やプログラムなどに環境保全の要素を組み込むとともに、適切な環境社会配慮 が実施又は確認された開発途上国の事業に対し協力を行う。
c.我が国の先導的な働きかけ
政策対話、各種フォーラムなどの適切な協力方法を通じて開発途上国の環境意識の向上を図り、環境問題 に対する取組を奨励する。
d.総合的・包括的枠組みによる協力
地域レベルや地球規模の環境問題の解決のために、多様な形態の協力を効果的に組み合わせて総合的・ 包括的枠組による協力を実施する。
e.我が国が持つ経験と科学技術の活用
我が国が環境問題を克服してきた経験・ノウハウや複雑化する環境問題に対する科学技術を活用した途上 国への支援を行う。それらの経験・ノウハウや、観測、データ解析、対策技術などに関する科学技術は、地方自 治体、民間企業、各種研究機関、NGOなど我が国政府機関以外の組織にも幅広く蓄積されており、支援にお いてはそれらとの積極的な連携を図る。また、専門的知見や実施体制を有する国際機関などとの連携も図る。

(ハ)災害への取組に関するアプローチ及び具体的取組

地震や津波などによる災害に対して我が国が国際的に高い比較優位を有する自国の経験や技術(観測など に関する科学技術を含む。)、人材を活用して、上記(ロ)と同様のアプローチにより取り組む。

(4)平和の構築

(イ)平和の構築の考え方

a.
冷戦後の国際社会では、地域・国内紛争が多く発生している。また、いったん停戦が成立した後、紛争が再発 することも少なくない。紛争は、難民・国内避難民の発生、経済・社会基盤の破壊、統治組織の機能不全といっ た様々な問題を引き起こす。その結果、人々の生命や生活、尊厳を維持することが極めて困難となるほか、その 国及び地域全体の開発も妨げられる。その意味で平和と安定は開発の前提条件である。
b.
平和の構築は、紛争の発生と再発を予防し、紛争時とその直後に人々が直面する様々な困難を緩和し、そして、 その後長期にわたって安定的な発展を達成することを目的としている。紛争予防や紛争の終結段階における支 援、紛争後の緊急人道援助、そして、中長期的な復興開発支援は、平和を定着させるために欠かせない。例 えば、ODAによる雇用創出事業や病院、学校の復旧事業を通じ、人々は生計を立て保健・教育サービスを受 けられるようになる。その結果、人々は「平和の配当」を実感し、社会の平和と安定につながる。
平和の構築に関する支援に当たっては、対立グループ間の対話など、和平のための政治的プロセスを十分踏 まえて、これを促進するよう配慮する必要がある。さらに、政治、社会、歴史、文化といった各国又は地域の個別 状況を十分踏まえる必要がある。
c.
我が国としては、国際機関や、他ドナー、さらには国内の民間部門やNGOと協力しつつ積極的に貢献する考え である。

(ロ)平和の構築に向けたアプローチ及び具体的取組

我が国の平和の構築に関する支援には、現地の治安状況や政府の機能不全など様々な難しい障害があり 得ることに留意する必要がある。我が国が平和の構築に取り組むに当たっては、支援関係要員の安全に最大 限の配慮を払いつつ、できることを着実に実施するという姿勢で取り組むべきである。

a.紛争前後の段階に応じた支援

紛争の予防・再発防止、紛争直後の段階から復興・再建段階、そして中長期的な開発といった段階に応じて、 以下のような支援を行う。

(i)紛争予防・再発防止のための支援
紛争のおそれのある国及び紛争後なお社会が不安定な状況にある国においては、紛争予防に十分配慮 して開発援助を実施することが特に重要である。援助の対象地域や対象者の選定に当たっては、被援助国 における紛争要因を歴史や文化を踏まえて正確に把握し、裨益対象が偏るなどして紛争を助長しないよう配 慮する。また、例えば、環境保全やインフラ整備といった非政治的分野で地域協力プロジェクトを実施するこ とによって、対立グループ間の対話と協力の促進を図る。また、紛争予防の観点から、兵器の拡散を防止す ることは重要であり、輸出入管理の強化、不正な武器の取引防止、法制度整備等に関する途上国の能力 強化を支援する。
(ii)紛争後直ちに必要となる緊急人道支援
紛争直後、難民や国内避難民を始めとする人々が自らの生命、生活を守るためには、最低限必要な「衣 食住」にかかわる緊急人道支援を迅速かつ効果的に提供することが必要である。このため、難民・避難民 の帰還や住居、食料、水、衛生、保健、教育などに関する緊急人道支援を実施する。
(iii)紛争後の復興支援
復興支援においては、人材育成を支援しつつ、紛争により破壊された病院、学校、道路、公共交通、上下 水道、エネルギー関連施設などの社会資本を復旧して、経済社会活動を軌道に乗せるための環境を整備す ることが必要である。このため、我が国は、社会資本の復旧を支援するとともに、政府の統治機能の回復の ための選挙支援、法制度整備に関する支援、民主化促進のためのメディア支援等を実施する。
(iv)中長期的な開発支援
中長期的な開発支援においては、開発を軌道に乗せることが必要である。このためには貧困削減や持続 的成長を目的とする幅広い支援を実施する。
b.一貫性のある支援

平和の構築の実施に当たっては、紛争前後の段階に応じて必要な対応を継ぎ目なく一貫性を持って行うこと が不可欠であり、この観点から、紛争直後の段階から中長期的な支援に至るニーズを正確に把握することが必 要である。そのため被援助国において、政府及び援助実施機関等の関係者との間で十分な意思疎通を図り、 具体的なニーズの発掘や案件の形成に当たるとともに、我が国のODAの考え方等について認識の共有に努め る。また、復興計画策定と即応的な復旧事業の形成を同時に行う緊急開発調査を活用しつつ、必要なタイミン グで調査の結果得られた情報を活用できるよう準備しておく。そして、緊急人道支援からその後の復興開発協 力へのスムーズな移行を確保し、両者の間で生じやすい空白(ギャップ)を極力解消していく。

c.迅速かつ効果的な支援

紛争は、多数の難民・国内避難民の発生、インフラの破壊や統治組織の崩壊、食糧不足、貧困、病気の蔓 延など様々な問題を引き起こす。このような危機的状況の下では、人間の生命、生活を保護するため迅速な対 応が必要となる。国際機関、地域機関、内外のNGOなどと連携してより効果的な援助を実施する。

また、我が国が、今後、平和の構築を積極的・効果的に行っていくためは、平和の構築支援に携わる人材の 育成が不可欠となる。そのため、JICA職員・専門家、コンサルタント、NGO等を対象とした各種研修を実施する。 また、治安の状況に応じた協力形態を柔軟に活用するとともに、派遣される各人に対して治安対策研修を行う。 必要なときに迅速な要員派遣を可能とする制度の整備を強化し大使館・JICAの体制を整備する。

d.政府に対する支援と地域社会に対する支援の組み合せ

紛争後の状況においては中央政府や地方政府がしばしば機能不全に陥る。政府の機能不全を緊急に補う ため、地域社会に対する草の根レベルの支援を通じ保健医療、教育、飲料水、食料などの基礎社会サービス提 供を行い、地域コミュニティの再生に努める。同時に、中央政府・地方政府の人材育成や制度整備を支援する ことによって政府の機能の回復に努め、早急に国として自立できるように努める。

e.国内の安定と治安の確保のための支援

紛争が終了しても政府の治安を維持する能力が不十分である場合が多く、このために人々の安全が脅かさ れ、開発活動が妨げられ、さらには紛争再発に至ることもある。したがって、人道・復興支援と平行して、治安強 化・紛争再発予防のために、ODA大綱との整合性に留意しつつ、警察支援、雇用創出を通じた除隊兵士の社 会復帰、地雷や小型武器を含む武器の回収及び廃棄、司法制度の改革等を支援する。

f.社会的弱者への配慮

健康等を害している人や女性、児童等紛争により特に深刻な影響を受ける人々や紛争により直接の被害を受 けた人々を速やかに保護する。地雷被害者を含む社会的弱者の能力強化に対し特段の配慮を図る。

g.周辺国を視野に入れた支援

紛争国に隣接する国の中には、難民の流入、貿易や投資への悪影響など紛争に起因する問題に直面し、困 難な状況に陥る場合がある。また、こうした周辺国は、紛争国と密接な関係を持っており、政治的な発言力を有 していることから、仲介によって紛争解決に貢献することが可能であるほか、貿易や人の交流を通じても地域の 安定・紛争予防に重要な役割を担っているケースも少なくない。他方、周辺国が紛争当事国内の特定勢力を支 援し、勢力間の対立関係に周辺国間の力関係が反映された場合も多く見られる。したがって、このような事情を 踏まえて紛争の解決や予防、地域の安定も念頭に置きつつ周辺国の支援を検討する。

4.効率的・効果的な援助の実施に向けた方策について

(1)援助政策の立案及び実施体制の強化の考え方

効率的・効果的な援助実施のためには、我が国の援助政策の立案及び実施の体制を強化し、政策立案から実 施まで一貫性を持って行うことが重要である。我が国は主要な被援助国について、被援助国の開発計画や国際的 な開発目標とも整合性を確保しつつ、国別援助計画及び重点課題別・分野別の援助方針を策定してきている。今 後、我が国は国際機関や他ドナー等とも連携を強化しつつ、これらの政策立案能力を一層強化するとともに、政策を 具体的な案件の形成・選定・実施につなげていくための体制を強化する。そのためには、被援助国と我が国の二国 間関係、被援助国の政治・経済・社会情勢を踏まえた開発ニーズや援助の実態を最も直接的に把握できる立場にある在外公館や援助実施機関現地事務所等、現地の機能を強化することが必須である。中期政策では、現地機能 強化について具体的取組及び体制整備を取り上げる。

(2)現地機能強化の具体的取組

我が国は、在外公館を中心にJICAJBIC等、援助実施機関の現地事務所を主要なメンバーとして構成される現 地ODAタスクフォース(以下、現地TF)を中心とした現地の機能強化に努めてきているが、これを更に推進するため、 現地TF及び東京においては以下の具体的取組を強化する。なお、その際、援助政策の決定過程・実施において現 地TFが主導的な役割を果たすよう、現地TFは、以下の具体的取組において積極的な参画・提言を行い、東京はこ れらに関する現地TFの提言を尊重する。 なお、現地TFが設置されていない被援助国においても、在外公館がIT等を活用して援助実施機関の兼轄事務 所等の協力を得つつ、可能な範囲内で、同様の努力を行い、東京もこれを尊重する。

なお、現地TFが設置されていない被援助国においても、在外公館がIT等を活用して援助実施機関の兼轄事務 所等の協力を得つつ、可能な範囲内で、同様の努力を行い、東京もこれを尊重する。

(イ)開発ニーズ等の調査・分析

現地TFは、被援助国の政治・経済・社会情勢を踏まえた開発ニーズや被援助国自身の開発の取組につい ての調査・分析機能を強化する。その際、現地関係者を通じて、現地の経済社会情勢などを十分把握する。ま た、現地TFは、必要に応じて外部人材を活用するとともに、現地援助コミュニティ(主要ドナー諸国・国際機関、 NGO、学術機関等を含む。)との情報交換等も行う。

東京は、政策支援型の開発調査や政策アドバイザーの派遣等をより機動的に活用することを通じて、これを支 援する。

(ロ)援助政策の立案・検討

a.国別援助計画の策定への参画

国別援助計画は、上記(2)(イ)の被援助国の抱える開発ニーズ等を正確に把握した上で、外交的視点も入 れつつ、向こう5年間程度の我が国援助の方向性や重点分野・項目を明確に示すものである。このような計画の 策定や改定に当たり、現地TFは、援助計画が被援助国の開発計画や開発目標、更に国際的な開発目標と整 合的な内容となるよう、現地援助コミュニティ(主要ドナー諸国・国際機関、NGO、学術機関等を含む。)との連携 の在り方も視野に入れつつ、現場ならではの知見や経験を最大限に活用して積極的に参画する。

b.重点課題別・分野別援助方針の策定への参画

現地TFは、上記(2)(ロ)a.の国別援助計画及び下記(2)(ロ)c.の政策協議を通じて明確にされた重点分 野・項目に沿って、より具体的な重点課題別、分野別の援助方針策定に関して積極的に提言を行い、これにより、 開発ニーズを真に反映した案件の形成・実施につなげることを目指す。東京は現地TFの提言を尊重する。

c.政策協議の実施

現地TFは、国別援助計画及び重点課題別・分野別援助方針で示される中期的な取組の方針が実際の案 件形成・要請・実施に反映されるよう、中期的視点から見た重点分野や政策・制度上の課題につき被援助国と 認識を共有し、また、意見調整を行うため、必要に応じて東京からの参加者も得つつ、政策協議を実施する。

なお、国別援助計画が策定されていない国については、ODA大綱及び中期政策を踏まえ、政策協議を通じ て現地TFが主導的に我が国援助の方向性や重点分野・項目を明確化する。

(ハ)援助対象候補案件の形成・選定

a.現地TFの主導的役割

現地TFは、援助案件の形成・選定のための精査において主導的役割を果たす。具体的には、現地TFは、 被援助国の要請(要望調査結果)を東京に報告する際に、援助候補案件の優先度について東京に提言する。 東京は、案件を選定する際に、こうした現地TFの提言を尊重する。

b.援助手法の連携と見直しへの提言

我が国の援助が全体として最大の効果を上げるためには、各援助手法の有機的連携が重要である。このた め、現地TFは、特に、無償資金協力、円借款、技術協力それぞれの援助手法の適切な役割分担を明確化し つつ、これら3手法が相当程度実施されている被援助国について、具体的な連携モデル案件の形成に努める。 また、現地TFは、国際機関や他ドナーとの援助協調等の国際的な動向を踏まえつつ、当該国における援助手 法の見直しの必要性と可能性につき、具体的提言を行う。東京は、現地TFからのこれら提言を踏まえて、援助 手法の連携と見直しにつき検討する。

(ニ)現地援助コミュニティとの連携強化

開発援助をめぐる国際的な取組として、援助コミュニティにおいて、ミレニアム開発目標(MDGs)を始めとする共 通の開発目標や開発戦略の設定が進行している。こうした動向を踏まえ、現地TFは、我が国援助の効果を向 上させる観点から、国際機関や他ドナーを始めとする現地援助コミュニティと緊密な連携を図りつつ、我が国の援 助政策に沿った形で積極的に援助協調に参画していく。こうした取組は、現地において我が国の存在感を高め ることにもつながり得る。特に、我が国の援助の重点分野において援助協調が推進されている場合には、我が 国が主導的役割を果たすことも含め、被援助国政府の自助努力を促しつつ当該国の開発政策の策定・実施の 過程に積極的に関与する。

(ホ)被援助国における我が国関係者との連携強化

我が国が有する優れた技術、知見、人材、制度を活用することも重要であることから、現地TFは、被援助国 において活動する我が国のNGOや学術機関、経済団体(現地に進出している民間企業を含む。)等との連携強 化のため、これら関係者との意見交換を活発に行う。

(ヘ)我が国ODAのレビュー

現地TFは、被援助国に対する政策レベル及びプログラムレベルでのODA評価の結果等も参考にしつつ、被 援助国に対するこれまでの我が国援助が所期の目的・意義を達成したか、目指すべき方向性は適切であったか、 重点分野・重点項目の置き方は有効であったか、援助実施上の留意点には有効に対処できたか等についてレ ビューを行う。

また、現地TFは、このレビューの結果を踏まえて、国別援助計画や重点課題別・分野別援助方針の策定・改 定等への参画に際して、適切な改善を図る。

(ト)情報公開と広報

ODAに関する透明性向上を図るために、現地TFは、東京からの支援も得つつ、タスクフォースの活動、国別 援助計画や政策協議等の内容について、ホームページ等を活用した積極的な広報に努める。

(3)現地機能強化のための体制整備

上記(2)に列挙された現地の機能強化を行うためには、現地TFのみならず、東京も含めた体制の強化が重要である。このため、以下を始めとする具体的施策を可能な範囲で実施する。

(イ)適切な人員配置と人材育成(外部人材の積極的な活用を含む。)

現地TF及び東京の両方において、援助業務に関する経験と高い実務能力を備えた人材及び現地の政治・ 経済・社会情勢に精通した人材等、政府内及び外部からの有為な人材を積極的に活用しつつ、適切な人員配 置を行う。また、援助においては緊急に対応を必要とする場合もあることから、そのような事態にも柔軟に対応で きるよう、機動的かつ柔軟な人員配置も併せて行う。

現地機能を強化する上で、援助協調等の国際的潮流や我が国援助の政策や実施の全般について広い経 験と知見を有する人員の確保は必須であるため、現地TF及び東京の両方においてIT等も活用して研修を充 実させることも含め、援助に携わる人材育成を通じて我が国援助の裾野を広げることを目指す。

(ロ)IT等を活用した情報・知見の共有の促進

東京は、現地TFが、特に(2)(ロ)b.の重点課題別・分野別援助方針等を策定するに当たって有益と考えられ る関連情報や知見を、IT等を活用して積極的に現地TFに紹介・共有する。