「人間の安全保障」の視点を理解する上で参考となる案件例(2004年現在実施中のもの)
セネガルの村落地域には、井戸などの適切な給水施設が整備されていないため、多くの女性や子供達は日課とし て遠方まで水汲みに行かなければならず、また、安全な水が入手できないために極めて衛生状態が悪い地域が多く 存在する。
我が国は、水の「欠乏」という脅威から住民を保護するため、無償資金協力により給水施設の整備を行った。給水 施設の整備に加え、人々が持続的に自らの力でより良い生活を実現できるよう、技術協力により住民の能力強化につ ながる支援を行った。具体的には、我が国は村落レベルで給水設備の運営・維持管理が行えるよう、住民組織を形 成して保守・点検方法や、料金徴収方法を研修したり、女性を始めとする地域住民の生活改善のために水衛生と関 連付けて保健衛生教育を行った。また、これに関連して、給水施設管理の余剰金で住民自らが養鶏事業を始める 等世帯収入が向上した。これらの活動は、人々の能力強化、村落の開発そのものを支援するものであり、また、女性 や子供といった脆弱な層への支援、保健・衛生・教育分野等の分野横断的な支援や、他国の援助機関が普及に努 めている住民組織モデルを活用することによる他機関との連携などを組み合わせたものである。 これらの我が国の援助によって、村落地域の多くの女性や子供達が水汲み労働から解放され、住民はより衛生的な 生活を実現できるようになってきている。
カンボジアでは、HIV/エイズの感染率が高く、経済活動の活発化に伴う人の移動・集中によりHIV/エイズ感染が 更に拡大するおそれがあり、その結果、住民や労働者がHIV/エイズの脅威にさらされる可能性がある。 我が国は、有償資金協力により支援したカンボジアのシハヌークビル港改修事業において、人々をHIV/エイズの脅威 から保護し、また自らを守る能力を強化するためのプログラムを事業の中に取り込むなど、「人間の安全保障」の視点 を反映させるよう工夫した。
具体的には、HIV/エイズという脅威から周辺住民を含む事業関係者を保護するために、労働者に検診を義務付 け、またコンドーム配布を教育活動と組み合わせて人々の行動を変えるような措置を採ったり、労働者の中からリーダ ーを育成し仲間同士の会合の場で保健衛生についての知識を深めるような活動を行ったほか、HIV/エイズに対する 問題提起や広報活動を広く行った。また、これらの活動が関係者に確実に浸透するよう現地のNGOと連携して実施 した。
この試みの結果、HIV/エイズ及び性感染症に関する感染経路や予防手段等が認識され、労働及び住民自らが HIV/エイズ感染のリスクから身を守る能力が強化された。