コラム⑧ 幸福を呼ぶ井戸

〜ミャンマーで百本建設へ〜

家族団らんの時間ができた


意見交換会に立ち会う森さん(写真左)
(写真提供:森さん)

「水は金(きん)より重い」という格言があります。ミャンマー中央部の雨がほとんど降らない乾燥地帯で、およそ15,000の村に約600万の人々が住んでいますが、村人たちは、生活のための水を得るのに日々大変な苦労をしています。

日本のNGOブリッジエーシアジャパン(BAJ)は、1999年から、日本政府の日本NGO連携無償資金協力も活用しつつ、この地域で井戸掘りの支援活動を行っています。BAJでプログラム・マネジャーを務める森晶子さんは、2006年から現地に駐在して、活動を行ってきました。「この地域の水事情は、乾季の中盤から終盤にあたる1月〜5月にかけて最も厳しくなります。雨水を貯めた溜池は干上がり、井戸がない村では生活用水を得ることが非常に難しくなります。住民たちは徒歩か牛車で遠く離れた水場まで水をくみに行くことになり、それは女性と子どもの仕事になります。また、月明かりをたよりに水を汲みに行くことも珍しくないばかりか、大事な労働力である牛も水汲みの間は畑仕事を休ませなくてはなりません。『1つの村に1つの井戸』は村人の切なる願いです。」と森さんは語ります。


井戸の水を喜ぶ子どもたち
(写真提供:森さん)

この地域の井戸掘りの難しさは、水脈まで200〜300mも掘削しなければならないことにあります。そのためには大型の掘削機械と掘削前の地下水調査が必要ですし、費用もかかります。BAJの活動当初は、従来からある掘削機を活用して技術面での改善を指導するだけでしたが、2006年以降は日本の民間企業であるワタベウェディング(株)の寄付を受け、新型掘削機械が使えるようになりました。

BAJがこれまでに掘った井戸の数は、2008年中には100本に達する見込みです。また、使用できなくなった古井戸の修繕も行っており、その数もこれまでに300本を超えました。重労働の水汲みから解放された村人たちは、「家族団らんの時間ができた。」と喜んでいます。

また、BAJでは、住民が井戸の維持管理に関心を持ち、積極的に参加できるよう、村人を対象に技術研修と意見交換会を毎年行っています。こうした努力が実り、「井戸は自分たちのものである。」との意識が村人の間に芽生えています。

例えば、井戸を使い続けるためには、水を汲み上げるポンプを動かすエンジンの燃料代や機械の手入れのための費用が必要です。そこで、BAJの協力によって、村人自身による水管理委員会を組織しています。水を利用する人から使用料を集め、お金は共同で管理することにしたところ、集めたお金に余裕が生まれ、井戸だけではなく学校の修繕費にあてることができた村もあります。

森さんは、「日本の団体が支援を続けることが目的ではなく、村の力が最大限発揮できるような基盤づくりができたらと思います。BAJがいなくても村人自身で井戸を維持管理できる地域が着実に広がっています。」と話します。