〜ガボンの老人介護〜
視覚障害のあるジョンさんにピアノを教える森島さん
(写真提供:森島さん)
アフリカ中西部に位置するガボンは、国家の収入を豊富な天然資源に依存しつつも、持続的な経済成長のために産業の多角化をはかっています。こうした経済の変化に伴い、所得格差の拡大や都市への人口流入、核家族化の進展など、ガボンの社会も変化しつつあります。都市部ではお年寄りが放置されてしまうなど、高齢者の介護の問題も深刻になっています。
このような問題を改善しようと、ガボン政府は首都リーブルビル郊外のメレン国立地方病院に老人科(注)を設置しました。しかし、設備や職員の技術が不十分なため、お年寄りが入所しても十分な介護が受けられないといった状態でした。日本はガボン政府の要請に基づき、2005年から、介護技術のある青年海外協力隊員をこの病院に派遣しています。森島みづえさんは、2008年1月から活動を開始しました。森島さんは専門学校で介護を勉強し、卒業後、鹿児島市で5年間、介護士として働いたその経験を海外でも活かすため、青年海外協力隊に応募しました。
メレン国立地方病院の同僚と(森島さん:右端)
(写真提供:森島さん)
当初、森島さんには入居中のお年寄りがあまりいきいきとしていないように見えました。そこで、日本での経験を活かしてお年寄りが楽しく生活できるよう工夫しました。職員に食事介助、身体介助などの技術を教える一方で、お年寄りには塗り絵、輪投げ、ピアノなどのいろいろな活動に参加するように働きかけました。最初はただ眺めていただけの職員も、徐々に森島さんの取組を理解し始め、見よう見まねで森島さんの介護技術や工夫を習得していきました。
例えば、ピアノを楽しみたい視覚障害者のジョンさんのために、森島さんは日本の介護施設で使用されている位置確認法を応用し、「ド」の位置にシールを貼りました。鍵盤の位置を把握したジョンさんは、徐々にピアノが上手になり、「自分で弾いて歌うのが楽しい。新しい曲をたくさん弾きたい。」と、今では毎日ピアノを楽しむようになりました。また、自分の殻に閉じこもりがちなレンベさんのためには、大好きなタバコを吸いたい時にいつでも火をつけられるように、マッチを常に持ち歩きました。レンベさんは森島さんに心を開き、それまで参加を嫌がっていた塗り絵を楽しむようになり、職員を困らせていた無断外出も以前よりなくなりました。
老人科内で森島さんは常に入居者に声をかけるなど、皆がいきいきとするように気を配っています。また、「いたわり」の気持ちも忘れません。「日本に比べ自分の思いを素直に伝えるガボンでは介護者、入居者双方のストレスが日本より少ないと感じられる一方、入居者が弱い人々であるといった見方がややもすると忘れられがちです。いたわりの気持ちを忘れずに接しながら、お互い思ったことをいうことで、よりよい介護ができるのではないでしょうか。」。森島さんは、日本での経験とガボンで学んだことを同僚と分かち合いつつ、よりよい介護を目指しています。