〜マラウイでの連携による感染症対策〜
伝統舞踊でエイズ啓発を歌うサポートグループ
(写真提供:ワールド・ビジョン)
「自分たちのこの苦しみを、これ以上ほかの人に味わって欲しくない。」、これがマラウイのHIV感染者から頻繁に聞こえる叫びです。アフリカ南東部に位置するマラウイでは、HIV/エイズまん延の脅威が押し寄せており、感染者は93万人(注1)といわれています。この数はマラウイの総人口の約7%にあたり、世界有数の感染率です。HIV/エイズのまん延は、マラウイの持続的成長にとっても、大変深刻な問題となっています。マラウイ政府もこれを阻止するため、検査所や保健所を設立するなどの対策は行っていますが、特に農村部へは手が届きにくくなりがちです。そうした中、マラウイ政府や地方政府のみならず、日本政府、現地マラウイ人、日本や現地のNGO、感染者などが一丸となってこの課題の克服に力を注いでいます。その中で、活動しているのが日本のNGOであるワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)です。
完成したVCTセンターの前でカウンセラー、
保健所スタッフと(右端:中村さん)
(写真提供:ワールド・ビジョン)
WVJは、マラウイの農村部での深刻なHIV感染状況の改善のため、日本政府の資金協力(注2)を得て、エイズ検査相談所(VCTセンター)を設立し、マラウイ人自身によるVCTセンター運営のための人材育成(注3)を行ってきました。
WVJの中村夕貴さんは、2007年5月からプロジェクト調整員としてこのプロジェクトに携わってきました。「子ども支援を重視するWVJは、政府の手が届きにくい農村部での子どもへの影響に注目しました。特に、幼い子どもが親を失っていくのを見て何とかしなければと思いました。」と、中村さんは活動当初を振り返ります。
マラウイ政府のVCTセンターの不足を補完するため、WVJは、マラウイ国内13か所にVCTセンターを設立し、運営に不可欠な設備・機材を整備しました。一方、マラウイ保健省は、ウィルス検査キットの供与とセンターの運営を行うカウンセラーの人材確保を担当しました。さらに、これらの人材の研修については、現地のNGO「マクロ」が担当しました。
WVJは、VCTセンターの設置場所選定に当たっては、国道沿いなどの潜在的に感染者が多い地域や感染者数が増加傾向にある地域を選びました。また、設置場所の土地を確保する際には、地方政府の保健当局や住民組織との意見調整が必要でした。中村さんは「このプロジェクトでは、多くの関係者との交渉が必要になることもありましたが、外部者である日本人が加わることによって、むしろ交渉が円滑に行われるということもありました。」と語ります。
WVJは、ポスターやテキストの作成を通じてHIV/エイズやウィルス検査に関する啓発活動も行っています。それでも、「抗体検査は重要なので行きましょう!」と訴えるだけでは不十分です。なぜなら、多くのマラウイ人には、感染が判明することにより、死への恐怖とともに、家族を含む周りの人々から激しい差別を受けるという恐怖感があるからです。そこで、感染者自身がVCTセンターに感染者グループを組織し、抗体検査の重要性を一般の人に訴える啓発活動を始めました。マラウイ流の歌と踊りが加わり、その独特なリズムは人々の心に訴えます。いつ終わるとも知れない踊りや歌をとおした啓発活動は感染者の基礎体力を維持するといった思わぬ効果もありました。マラウイの一般の人たちへの啓発活動には、感染者グループが欠かせない存在となりました。
多くの人の協力によって、VCTセンターへHIV/エイズの検査相談に訪れる人々の数は徐々に増加しています。あるセンターでは、2008年7月には、月に420人を数えるほどになりました。
オーナーシップを重視するWVJは、2008年9月よりVCTセンターをマラウイ政府の保健省に引き渡し、マラウイ人自身の運営に委ねました。マラウイは、様々な関係者の連携によって、その国の名前を意味する「光」を取り戻そうとしています。