(2) 人材育成と開発研究

(イ)人材育成
  開発問題の多様化と高度化により、現在、国際協力活動を効果的・効率的に実施していく上では、高度な知識と豊富な経験、外国語コミュニケーション能力などを備えた有能な人材の育成と確保が不可欠です。
  こうした背景を踏まえ、国際開発大学構想を推進する機関として1990年に設立された財団法人国際開発高等教育機構(FASID (注17))は、援助に携わる人材を対象とした研修や教育、調査・研究事業などを実施しています。FASIDは、開発の理論、政策、実務について能力向上を目的とした各種研修を、政府関係者のほかNGOや民間企業関係者など幅広い層に対して実施していることに加え、開発援助分野の重要テーマに関する調査・研究を行い、その成果を幅広く公表しています(注18)。また、2000年4月から、政策研究大学院大学(GRIPS (注19))と連携して、同大学院修士課程に国際開発プログラムを開設し、さらに2002年4月には博士課程を開設したほか、いくつかの大学に開講されている開発協力関連の講座や学科などに対してFASIDから講師を派遣しています。
  また、JICAでは各種プログラムの運営を通して、最新の援助動向や技術移転手法、語学を学んだり、国内および海外での援助実務経験を習得させるための研修を実施しています。ジュニア専門員といった、ある程度の専門性を持ちつつも経験の浅い若手の育成から、既に一定の専門性や経験を有する国際協力専門員まで、幅広く人材の育成と拡充を行っています。こうした取組を通じ、日本の政府開発援助事業以外にもNGOや国際機関などで即戦力として活躍する人材を輩出することが期待されています。
  さらに、専門性や意欲を持つ人材を効果的かつ有効に確保・活用するためにJICAに「国際協力人材センター」を開設し、JICA、NGOや国際機関の求人情報の提供、人材登録、各種研修・セミナー情報の提供およびキャリア・アップの相談などを行っています。
  このほか、日本貿易振興機構(JETRO (注20))のアジア経済研究所開発スクール(IDEAS (注21))では、開発途上国の経済・社会開発に寄与すべく、高度な能力を持った開発専門家を育成しています。外国人、日本人の双方に対して研修を実施しており、多方面で活躍しています。

(ロ)開発研究
  また、効果的・効率的な援助を行うためには、開発途上国のニーズや国際社会の動向を適切に把握することが不可欠であり、このための調査研究や知見の活用に向けた取組が行われています。
  外務省では、気候変動の適応に関する有識者会議を設置し、2007年3月には、適応策の考え方、開発途上国の適応能力強化のための国際的支援の在り方、国際協調などについて、提言を受けました(注22)
  JICAでは、国際協力総合研修所において、JICA関係者を中心とした研究会を組織しています。研究会の内容によっては大学や研究機関などの外部有識者の知見を得つつ、開発や援助に関する課題について、新たな領域での事業戦略策定に向けた分析や提言、援助潮流や開発理論の分析を行う事業戦略研究を実施しています。さらに、これまでの事例研究を通じた事業経験の体系化、援助マネジメント手法を検討する援助手法研究という2つの大きなテーマを中心に調査研究を実施しています。2006年度は、新JICA発足に向けた準備や昨今の気候変動に対する国際世論の高まりを踏まえた、「資金協力と技術協力の一体的実施」、「気候変動に対する適応策」や、「タイ地方行政」などの能力強化事例研究を含む、合計28件の調査研究を実施しました。
  JBICでは、開発金融研究所において、開発途上国の開発政策や事業が、効果的かつ効率的に形成・実施され、高い効果を発現するための協力の一環として、国内外の研究者の知見を活用しながら、開発政策・制度・事業等の諸問題に関する調査や政策提言を行っています。
  2006年5月には、開発に関する先駆的な研究発表・議論の場である「開発経済に関する年次報告(通称:ABCDE Tokyo 2006)」が初めて東アジアで開催されました。同会合における「貧困層に裨益する経済成長のための都市インフラ」および「貧困削減における農業の役割」の分科会においてJBICの過去の研究成果等を発表しました。また、JBICは、開発途上国の政策・研究機関からなる世界的ネットワークであるGlobal Development Network(GDN)の日本ネットワーク(GDN-Japan)のハブ機関の役割も担っています。GDN-Japanとして2006年1月に北京で開催された「第8回GDN年次会合」では「集積による開発・内生的成長と貧困削減」をテーマに分科会を行いました。2006年度は、「インフラとMDGsの実証研究-インフラの貧困削減と人的資本へのインパクト-」調査、「中東地域安定の要としてのエジプト」調査を実施しました。
  新JICAでは、近年のODA改革および国際社会の動向を踏まえ、調査・研究業務の重要性が高まってきたことを受け、このような業務が独立した号として法律で規定されることになりました。今後、日本の援助を国際的に発信していくための研究や、日本の援助の優位性を伸ばすための研究に力を入れていくことが期待されています。

コラム 21 生活の中に国際協力を

コラム 22 シニア海外ボランティア


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