日本は、NGO (注7)、大学、地方自治体、国際機関、他国や民間企業と連携しつつ国際的な協力を行っています。
日本のNGOは、様々な形の支援を得て、開発途上国における保健、教育、水供給等の分野において、幅広く、きめ細かい援助を実施しており、日本国内、現地で高く評価されています。NGOは、(1)途上国・地域のコミュニティレベルで地域住民とともに活動を行っており、多様な需要に応じたきめ細かな援助が可能です。また、(2)大規模な自然災害が発生した場合、NGOは被災現地に素早く赴き、迅速かつ柔軟な緊急人道支援活動を展開できる点、(3)日本の「顔の見える援助」という点、(4)政府では手の届かない地域での活動が可能な点-から重要になってきています。近年、NGOは開発援助、緊急人道支援のみならず、環境、人権、貿易、軍縮等の分野において様々な活動を行っており、国際社会においてますます大きな役割を果たすようになっています。
(イ)日本の基本方針
日本はこのようなNGOの活動と役割の重要性を踏まえ、政府開発援助大綱ではNGOとの連携推進を提唱し、また、2005年に策定された政府開発援助に関する中期政策では、NGO等との連携を随所でとりあげています。
日本としては、これまでも日本のNGOの活動強化を図るため、NGOの海外での活動に政府資金を提供し、また、日本のNGOの基盤強化に向けた各種の協力やNGOとの対話、連携を推進してきています。
(ロ)NGOの活動への日本の協力
日本は、NGOが円滑に援助活動をできるように以下の資金協力を行っています。
i 日本NGO連携無償資金協力
2002年度に設立された日本NGO連携無償資金協力は、開発途上国・地域で活動する日本のNGOが実施する経済・社会開発活動に対して事業資金を提供する制度です。2006年度には、24か国において32団体の52事業に対し、また、(特活)ジャパン・プラットフォーム(JPF (注8))を通じて5か国において13団体の36事業に対して合計約20億円の資金提供を行いました。
ii 草の根技術協力
草の根技術協力は日本のNGOなどとJICAが開発途上国の地域住民の生活向上に直接役立つ事業を協働して実施するもので、2002年度の設立当初には9.5億円であった予算は、2006年度には19.9億円に増大しました。
また、政府はNGOの能力強化への協力を実施しています。近年、日本のNGOは国際協力の現場において目覚ましい活動を行い、高い評価を得ているものの、より一層活躍するためには、その専門性や組織実施体制の強化が必要です。このような観点から、NGOの組織強化や人材育成などへの協力のため、外務省やJICA、財団法人国際開発高等教育機構(FASID (注9))等が、政府資金により様々なプログラムを実施しています。
iii NGO活動環境整備事業
2006年度に外務省は、日本のNGOの共通関心事項および援助の国際的潮流を視野に入れ、「災害復興時の教育支援のあり方」、「人道支援におけるプロテクション」、「ファンドレイジング」、「ネットワークのあり方」の4つのNGO研究会(注10)を行いました。また、NGO相談員(注11)を全国に17名配置して各種アドバイスを行い、また、NGO専門調査員(注12)11名を11団体に派遣しました。さらに、「貧困を改めて考える・アフリカNGOから学ぶ」をテーマにした海外NGOとの共同セミナー、「アカウンタビリティー・セミナー」を行うなど、様々な面からNGOの能力強化に協力しました。
(ハ)NGOと政府との対話・連携
日本は、NGOとの連携の強化に努めています。国内では、1997年からNGO・外務省定期協議会を開始し、日本の援助政策や日本NGO連携無償資金協力などの制度についての討議が活発に行われています。また、実施機関であるJICA、JBICもNGOと定期協議会を開催し、政府開発援助事業に対するNGOからの意見を積極的に取り入れています。国外では、NGO関係者が政府開発援助の効率的・効果的実施を協議する場とする「ODA大使館」を2002年に開設し、これまで、カンボジア、バングラデシュ等の13か国で実施しています。
このような国内外におけるNGOとの協議に加え、NGO、政府、経済界が連携して、2000年にジャパン・プラットフォーム(JPF)を設立しました。JPFには日本NGO25団体(注13)が参加し、緊急人道支援の際には、事前に供与された政府開発援助資金や一般企業・市民からの寄付金を活用して、迅速な援助を実施します。JPFは、2006年度、ジャワ島南西沖地震、イラク、リベリア、スーダン、東ティモールおよびレバノンに緊急人道支援活動を展開し、これらに活用された政府開発援助は約10億円となりました。
図表II-43 NGO・外務省定期協議会の開催状況(2006年度)
(ニ)NGOとの連携・協力の今後の方向性
日本のNGOが開発途上国での開発協力事業や緊急人道支援活動に一層積極的に対応できるようにするため、NGOの抱える諸問題や要望に配慮しつつ、対話を一層重ね、今後とも連携・協力の充実・多様化に努めていきます。
2006年度、JICAは、事業の質的向上、援助人材の育成、地方発の事業展開の活性化などの効果を期待し、専門家の派遣、研修員や留学生の受入、草の根技術協力事業、連携講座の実施など、様々な事業の場面で大学と連携してきました。また、近年では、技術協力プロジェクトの実施を大学との契約により包括的に行うケースも増えてきています。その背景には、個々の大学の持つ知的資産を、事業の活性化や質の向上、援助人材の育成に役立てたいという期待があります。
一方、大学にとっては、JICAと連携することで開発途上国の現場にアクセスしやすくなり、実践的な経験を得られるという利点が考えられます。したがって近年では、組織的な協力関係を構築し、事業の相乗効果を高めることを目的に、大学との間で包括的な連携の枠組み(連携協力協定や覚書)を導入し、帯広畜産大学、北海道大学、広島大学等13の大学と9つの協定・覚書を締結しています。今後も、大学の知見を国際協力事業にいかすべく、大学との連携に一層努めていきます。
円借款事業に関連する取組として、(1)海外経済協力業務に関する業務協力協定を結んでいる大学(計11大学)との間で定期協議を開催する、(2)インドの植林案件や、中国の水環境整備(上下水道)案件の形成段階において、地方自治体や大学(北九州市、沖縄県、琉球大学、島根大学等)の専門家と協力し、日本の経験、知見等を提供する、(3)地方自治体や地域国際化協会との協議を通じて相互理解・情報交換を促進する、(4)優れた経験・知見を持つ日本の団体(NGO、地方自治体、民間企業、大学等)との連携を目的に、円借款事業の視察を中心とした円借款パートナーシップ・セミナー(2006年度は中国を訪問)を開催する-などの取組を実施しました。
開発途上国の地方自治体や、NGOとの連携を図ることも重要です。日本は、主に草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて、これら関係者が実施する事業を支援しています。開発途上国の政府を通じた支援とは異なり、余り大規模な事業への支援はできませんが、草の根レベルに直接利益となるきめ細かい援助として高く評価されています。また、開発途上国の開発に資するのみならず、NGO・市民社会の強化が期待できます。
2006年度には、ジンバブエ第2の都市であるブラワヨ市が、近年の干ばつによるダム枯渇での深刻な水不足に悩んでいる状況に対し、国際NGOであるワールド・ビジョン・ジンバブエの事業に協力することで支援を行いました(注14)。具体的には、ブラワヨ市の社会的弱者層が住む6地区を対象に、掘削済み井戸にポンプを設置して井戸水の再利用を図るとともに、井戸利用者に対する正しい井戸水の利用法等の衛生上の啓発活動を通じ、同地区住民の生活環境および健康改善を図りました。
援助の実施にあたっては、日本の民間企業の持つ技術や知見の活用を図っていくことも重要なことです。このような民間企業との連携の一例として、円借款における本邦技術活用条件(STEP (注15))制度があります。STEPは、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を進めるために、2002年に導入された制度です。STEPの条件では、契約先は日本企業に限定されており、開発途上国の現場での日本企業による事業実施と技術の活用を通じ、日本の「顔の見える援助」が一層促進されることとなります。
従来、STEPの実施の際には、円借款融資対象総額(コンサルティングサービス部分を除く)の30%以上について、日本を原産とする資機材を調達することを条件としていました。2006年10月には、工法等の面で日本企業の優れた技術の活用が期待される事業については、資機材の調達のみならず、工事費等のサービスに係る部分もこの比率の算定に含めることとするなどの制度変更を行いました(注16)。この制度変更により、本制度の更なる活用が期待されます。
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