2. 南アジア地域

  日本の南アジア地域に対する2006年の二国間政府開発援助は、約5億1,801万ドルで、二国間援助全体に占める割合は6.9%です。

図表II-33 南アジア地域における日本の援助実績

図表II-33 南アジア地域における日本の援助実績

< 南アジア地域の特徴 >

  南アジア地域は世界最大の民主主義国家であるインドをはじめ、高い経済成長や大きな経済的潜在力を持つ国があり、国際社会における存在感を強めています。地理的にはアジアと中東を結ぶ海上交通路に位置し、日本にとって戦略的に重要であるほか、地球環境問題への対応という観点からも重要な地域です。また、インド・パキスタンにおける大量破壊兵器等の問題、および、「テロとの闘い」の前線という役割からも、日本を含む国際社会にとって関心の高い地域です。
  しかしながら、南アジア地域においては、安定した経済・社会発展に不可欠なインフラ欠如が深刻であり、高い成長を続けているインドにおいても、道路、鉄道、港湾などの基礎インフラ整備が必要となっています。また、14億人近い人口を擁する同地域は、5億人以上が貧困層という世界でも貧しい地域の一つです。バングラデシュ、ネパール、ブータンといった後発開発途上国(LDC (注10))をはじめ、インドにおいてもその急速な経済成長の一方で、人口の約3割の貧困層を抱えるなど、同地域の貧困問題は深刻です。南アジア諸国には、宗教・民族の多様性に起因する社会問題や政治問題があります。基礎インフラの整備や貧困削減に加えて、増加する人口、低い初等教育普及率や保健医療の未整備、不十分な感染症対策、法の支配の未確立といった取り組むべき問題が依然多く残されているのが現状で、ミレニアム開発目標(MDGs)達成を目指す上でもアフリカと並び最も重要な地域です(注11)

< 日本の取組 >

  政府開発援助(ODA)大綱は、開発途上国の持続的成長や貧困削減を重要課題として掲げています。南アジアの有する経済的潜在力をいかし、また拡大しつつある貧富の格差を緩和するためのバランスのとれた経済成長を可能とするため、日本は、南アジア諸国に対して、社会経済インフラの整備を支援していくことが重要だと考えています。
  特にインドとの間では、基本的価値観を共有する「戦略的グローバル・パートナーシップ」に基づいて、政治・安全保障、経済連携(注12)、人物交流など、幅広い分野で協力を進め、日本の知見の伝播を図ることとしています。これに加え、日印経済関係強化を通じた経済成長の促進を図るとともに、急速な経済成長に追いついていないインフラを整備し、貧困削減や社会セクターの開発を進めていきます。さらに、今後の経済成長に伴って、温室効果ガス排出量の増加が見込まれるインド、地球温暖化の影響を受けるバングラデシュ等との間で、環境・気候変動・エネルギー問題に関しても、より協力を深めていくこととしています。

< 援助協調の取組 >

  南アジア地域では、各国で援助協調に向けた取組が進んでおり、特にバングラデシュにおいて、先進的な取組が行われています。日本は、世界銀行、アジア開発銀行、英国国際開発省(DFID (注13))とともに、2005年3月、対バングラデシュ共通援助戦略を策定し、四者はその下での援助の連携に努めています。また、主要な援助国・機関を中心に、バングラデシュ政府が策定した貧困削減文書実施をより効果的に支援するため、協調・連携を進めています。具体的には、現地ドナー調整グループ(LCG (注14))およびその下に位置付けられる課題ごとのサブグループを軸として、開発課題の共有、情報交換、実施における連携が進んでいます。

コラム 17 ネパールにおける和平プロセス支援

< 最近の動き >

  南アジア諸国で構成される南アジア地域協力連合(SAARC (注15))は、地域内のインフラ整備や貧困削減、経済自由化などに取り組んでいます。2007年4月、日本は、第14回SAARC首脳会議にオブザーバーとして初めて正式参加しました。会議に出席した麻生太郎外務大臣(当時)は、南アジアを「自由と繁栄の弧」の中心と位置付け、この地域の民主化・平和構築や、域内連携促進、人的交流促進を支援していくことを表明しました。
  2007年8月には、安倍晋三総理大臣(当時)がインドを訪問し、両国首脳間で、日本の政府開発援助は引き続き、インフラ開発、環境およびエネルギー協力、貧困削減、社会セクター開発などの分野において、より大きな役割を果たすべきとの認識を共有しました。
  後発開発途上国であるブータン、ネパールに対しては、無償資金協力による支援を重点的に実施しており、技術協力とも連携しつつ、農業、保健・医療、教育などの基礎生活分野に重点を置いた協力を行っています。
  円借款を通じては、貿易投資環境の整備に資する電力や運輸などの経済インフラの整備、教育や上下水道などの社会インフラの整備への支援を行っています。特に、インドは、2003年度から4年連続で、円借款の最大供与国となっています。また、ブータンに対しては、2007年4月、初めて円借款の供与を決定し、同国における地方電化のための配電網整備を支援しています。
  ネパールでは、2006年4月の下院の復活、同年11月のマオイスト(反政府武装勢力)との間での包括的和平合意の成立、さらに2007年1月の暫定憲法公布および暫定議会の発足、同年4月の暫定政権発足など、人権や民主主義の回復および和平プロセスに進展が見られています。日本は、このような民主化の動きを支援するため、積極的に資金的・人的な協力を実施しており、国連ネパール政治ミッションへの自衛隊員の派遣、投票箱の供与等制憲議会選挙に向けた支援および児童兵の社会復帰支援なども行っています。
  和平プロセスが思うように進展していないスリランカに対しては、和平プロセスを後押しするために、紛争で疲弊した北・東部地域住民の生活水準向上のための支援等を実施しています。

(C)三井昌志
(C)三井昌志

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