2006年度は約146億円(30か国)の無償資金協力、約986億円(7か国)の円借款を実施、技術協力では、5,489人の研修員受入、454人の専門家派遣、289人の協力隊員を派遣しました。また、貧困農民支援は約48億円、水産無償資金協力は約46億円実施しました。
貧困層の約7割が農村地域に居住し、生計を主に農業に依存しているという開発途上国の状況を踏まえると、貧困削減のためには農業・農村開発が不可欠です。ミレニアム開発目標(MDGs)は、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」など貧困削減および飢餓の撲滅を主要目標に掲げています。特にアフリカ地域の状況は深刻で、サブ・サハラ・アフリカの人口の3分の1に当たる約2億人が飢餓に苦しんでいるといわれています(注91)。この問題を解決するためには、開発途上国が持続的に食料供給できるような体制を整備することが必要です。
日本は食料不足に直面している開発途上国に対して、危機回避のための短期的な取組として食料援助を行うとともに、飢餓を含む食料問題を生み出している原因の除去および予防の観点から、開発途上国の農業生産性の向上に向けた努力を中長期的に支援する取組も並行して進めています。
具体的には、貧農・小規模農家の食料生産の向上に向けた開発途上国の自助努力支援のための「貧困農民支援」、かんがい施設の整備や流通システム改善などに資する無償資金協力や円借款による支援、農業技術向上や農民組織の育成などのための研修員受入や専門家・青年海外協力隊の派遣による技術協力、さらにはNGOなどを通じた小規模かつ地域レベルで行われる活動に対する草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じた支援など、様々な形態による支援を実施しています。
こうした日本の農業分野における援助量は、世界的に見て高い水準にあります。経済協力開発機構開発援助委員会(OECD-DAC (注92))の統計によると、日本の2005年の農林水産分野における援助額は約1,109億円とDAC加盟国中最大であり、同分野における全援助額の約32%を占めています(注93)。
また、国連食糧農業機関(FAO (注94))、国際農業開発基金(IFAD (注95))、国際農業研究協議グループ(CGIAR (注96))、国連世界食糧計画(WFP (注97))などの国際機関を通じた農業分野への支援も積極的に行っています。
日本は、安定的な農業用水の確保および効率的な水利用を図るため、低コスト・節水型の末端かんがい設備の整備手法を開発し、その維持管理を農民自身が行うことを目的とした、農民の組織化に対する支援を実施しています。
2006年度には、ベトナム、カンボジアなどをはじめとするアジアモンスーン地域の水田地帯において、農民参加型水管理組織の育成および能力強化に係る技術協力を実施しました。同地域の水田地帯では日本が経験と知見を有する農民参加型水管理組織(土地改良区制度)を参考にハード、ソフト両面において持続的な農業・農村開発協力に貢献しています。タイにおいては、既に日本の協力により土地改良区を参考にした農民水管理組織が設立され、農民主体の運営が開始されており、効率的な水利用が図られています。
日本は国際機関と連携して、農村の開発計画の策定や末端用水路、農道などのインフラ整備に地域住民も参加する「村づくり協力」を進めています。具体的には、農民参加による土地や水利用に関する計画の策定、施設管理や農機具共同利用のための農民組織の設立・強化、必要資材を援助国側が提供することを前提とした農民の賦役による末端用水路や農道などの整備、施設の維持管理のための基金の創設といったハードおよびソフト両面の取組を日本人の専門家が農民に対して直接支援しています。このような「村づくり協力」は、協力の効果が直接農民に届くだけでなく、地方政府や農民の自助努力を誘発・促進させる協力手法としてとても有用です。
2006年度には、モンゴルにおいて村づくりの手法を活用しつつ、地方行政職員や農民等の能力強化の実施と併せ、土壌劣化防止に資する土地利用営農および農業農村開発のモデル計画を策定する調査を開始しています。
アフリカの農業生産性を高めるための具体的な取組の一つに、ネリカ稲(NERICA (注98))の開発・普及に対する支援があります。日本は、ネリカ稲の開発拠点であるアフリカ稲センター(WARDA (注99))の活動を支援しているほか、国連開発計画(UNDP (注100))やFAOを通じて普及事業に対する支援を行っています。また、2004年6月からウガンダにネリカ稲普及技術の専門家を派遣し、東アフリカにおけるネリカ稲の普及も進めています。その結果、ウガンダやギニア、コートジボワールでネリカ稲栽培面積が広がっているだけでなく、その周辺国でもネリカ稲の栽培が始まっています。2006年時点で、ネリカ稲の栽培面積は約20万ヘクタールといわれています(注101)。しかし、ネリカ稲の普及が比較的進んでいるウガンダにおいても、精米所の不足といった収穫後処理の問題、稲作関係者の人材育成、干ばつ対策としての補助かんがい方法の確立等取り組むべき課題はあります。今後とも日本は、ネリカ稲の普及を促進し、アフリカ諸国の米の生産量を拡大するとともに流通を改善し、アフリカ地域の食料安全保障に貢献できるように国際機関、NGOなどと協ヘしていきます。
![]() |
砂漠化の問題は地球規模における重要課題として注目されており、農業分野においても同問題に直面しています。雨水を利用し営農する天水農業地帯は、発展途上国に広く分布し世界の農用地面積の85%を占めていますが、急速な人口増加や貧困問題などによる家畜の過放牧および過耕作により、農地の土壌が劣化し、砂漠化が進行しています。日本は1998年12月には砂漠化対処条約の締約国となり、開発途上国に対し積極的・効率的な支援を約束しています。これまで、マリ、ブルキナファソ、ニジェールにおいて砂漠化への取組を行ってきたほか、最近ではエチオピアやモンゴルに対する支援も行っています。これらの地域での取組の中で、砂漠化の進行状況の把握や原因分析、砂漠化の進行が著しい現地の実証ほ場での試行を通じ、農業農村開発に向けた各種の技術マニュアルの開発を行ってきました。
日本は、水産無償資金協力を通じて、漁業面における日本との友好関係の強化の観点から、関係する開発途上国の水産業の発展に貢献するとともに、水産業に関係するインフラ整備、漁業訓練センターへの訓練機材などの供与を行っています。また、漁業・養殖業などに係る技術協力のほか、草の根・人間の安全保障無償資金協力により地域漁業団体を通じた零細漁民の生活向上のための支援などを実施しています。また、地域国際漁業機関を通じた協力として、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC (注102))による東南アジア諸国連合(ASEAN)域内の漁業・養殖業開発を支援しており、ASEAN各国から高い評価を得ています。
水産分野での協力の成果
1997~1998年度にセントルシアで実施した「ビューフォート水産複合施設建設計画」により、漁港施設(水揚岸壁、防波堤等)、荷さばき所、小売市場等を整備しました。その結果、ビューフォートの水揚量は、年度ごとに上下はあるものの平均して上昇傾向にあり、同国の主要水揚地として漁業生産の増加に寄与しています。
また、2006年度には、キリバスの「南タラワ水産業関連道路整備計画」に対し、12.85億円の無償資金協力を実施することを決定しました。この計画は南タラワのベシオ地区、バイリキ地区、ビケニベウ地区の合計約10.6キロの道路の改修等を行うもので、交通・流通が活性化されることによる水産業の振興が期待されます。