開発途上国が債務として受け入れた資金を有効に利用し、将来的に成長が実現するなど、返済能力が確保される限りにおいては、債務は経済成長に資するものです。しかし、返済能力が乏しく過剰に債務を抱える場合には、債務は開発途上国の持続的成長の阻害要因となり、大きな問題となります。
債務の問題は、債務国自身が改革努力などを通じて自ら解決しなければならない問題ですが、過大な債務が開発途上国の発展の足かせになってしまうことは避けなければなりません。
日本は、開発途上国で債務問題が発生することがないよう十分配慮して援助を行うとともに、債務問題が発生している国については、債務国自身の努力により中長期的な成長が達成され、債務返済能力が回復することが必要であるとの立場を基本としながら、国際的な枠組みの中で問題解決に取り組んでいます。
具体的には、日本は、パリクラブにおける合意を受けた債務の繰延(リスケジューリング)(注47)、免除、削除措置によって、債務救済措置に協力しています。
2004年のG8シーアイランド・サミットでは、主要先進国が重債務貧困国(HIPC (注48))イニシアティブ(注49)の完全な実施と、最貧国の債務持続性確保に取り組んでいくことを再確認しました。
また、G8は、2005年、イギリスで開催されたG8グレンイーグルズ・サミットにおいて、重債務貧困国が国際通貨基金(IMF (注50))、国際開発協会(IDA (注51))およびアフリカ開発基金に対して抱える債務を100%削減するとの提案に合意しました(マルチ債務救済イニシアティブ(MDRI (注52)))。
最貧国の債務問題について、日本は、拡大HIPCイニシアティブの適用が決定されている29か国に対して、G7各国が貢献した債務救済措置(債務免除方式、約259億ドル)の約5分の1に当たる約56億ドル(約6,163億円)の債務削減を実施することになります。これは、同イニシアティブにおける最大級の貢献です。日本は、今後とも同イニシアティブを迅速かつ着実に実施に移していきます。
日本は従来、債務救済のために無償資金協力(債務救済無償)による円借款債務の救済を行ってきましたが、債務問題のより早期の解決、債務国の負担の軽減、政府開発援助の透明性および効率性の観点から、2003年度から、旧来の債務救済無償の対象国に対しては、円借款債務の免除という形で債務救済を実施することとしました。2006年度には、日本は拡大HIPCイニシアティブに基づき、2か国に対して合計約315億円(カメルーン約100億円、マラウイ約215億円)の円借款債務を免除しました。また、パリクラブにおける合意で対象とされた付保商業債権(注53)についても9か国に対して合計約1,003億円(タンザニア約637億円、ホンジュラス約116億円等)の債務免除を実施しました。これにより、2006年度のHIPCイニシアティブに基づく公的債務免除の総額は約1,318億円となり、2003年度から開始したHIPCイニシアティブによる債務免除は総額約5,051億円に上りました。日本としては、債務免除が債務国の貧困削減を含む社会経済開発に資するよう国際社会と協調して貧困削減戦略文書(PRSP (注54))の下でモニタリングを行うこととしています。
また、重債務貧困国以外の低所得国や中所得国(以下「非HIPC」)についても、重い債務を負っている国があり、これらの負担が中長期的な安定的発展の足かせとならないように適切に対応していく必要があります。非HIPCが抱える債務問題については、従来以上に債務国の債務持続性に焦点を当て、各債務国の状況に見合った措置が個別に検討されています(注55)。日本は、非HIPCに対し、パリクラブの合意に基づき、2006年5月にドミニカ共和国、同11月にエクアドルに対して債務救済を行いました。