2. 援助の効果的な実施

  日本の開発援助が、より効果的に開発途上国の経済社会の向上に貢献するために、外務省および実施機関における抜本的な組織改編を行い、二国間援助と国際機関を通じた援助の連携や異なる援助形態間の連携の促進などの取組を推進しています。

(1) 二国間援助と国際機関を通じた援助の連携
  2006年8月、外務省は組織改編を行い、従来の経済協力局と国際社会協力部の国際開発機関を担当する部局を統合し、国際協力局を新設しました。これにより、二国間援助と国際機関を通じた援助を国際協力局の下に一元的に企画・立案する体制が整いました。二国間協力(バイ)と多国間協力(マルチ)のそれぞれの特徴をいかした連携を通じて、開発途上国における日本の協力の成果を向上させることにより、効果的・効率的な国際協力の実施に取り組んでいます。連携により期待される効果としては、主に以下の点を挙げることができます。
<1> 国際機関が有する専門的知見と日本の技術・経験を組み合わせることによる相乗効果。例えば、バングラデシュでは、初等教育の分野において、2004年から、国連児童基金(UNICEF)の有する教育の知見と日本に比較優位がある理数科教育の知見を組み合わせた協力を実施(注9)しています。
<2> 国際機関との連携による支援量(資金量)の増加や開発途上国の現場における面の広がりによる相乗効果。例えば、ウガンダでは、2007年10月に、アフリカ開発銀行との協調融資により、ウガンダ南東部における国内送電網整備のために約35億円の円借款を供与することを決定しました。また、スーダンでは、2006年5月から、ジャパン・プラットフォーム(JPF)を通じた政府開発援助資金を受け、日本のNGO5団体が浄水器・井戸・トイレなどの設置、学校給水、衛生教育、帰還民滞在センターの運営等、難民支援のため諸活動を実施していますが、これらの団体は現地で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連世界食糧計画(WFP)、UNICEFなどと事業連携を行い、全体として層の厚い支援を展開しています(注10)
<3> 国際機関の有する機動的な実施体制を活用することによる効果。国際機関の世界各地に広がる実施拠点の活用、へき地の住民や少数民族、開発途上国の社会から隔絶された社会集団に対する支援、災害援助などにおける迅速な初動体制の活用等が可能となります。例えば、イラク、スーダン等において、二国間援助の実施が困難な紛争直後の段階から、国際機関経由で、医療、食糧等の緊急の人道支援を実施することにより日本の存在感を示しました。
<4> 国際機関の政治的中立性を活用することによる効果。例えば、人口問題やエイズ対策の協力は国によっては機微な問題となるので、中立的かつ専門的知見を有する国連人口基金(UNFPA)や国際家族計画連盟(IPPF)との連携が有意義です。また、外交関係の有無等に制約されず人道支援の貢献に日本が参画することを可能とします。
  このように、二国間の援助と国際機関を通じた援助を効果的に組み合わせることは、日本の援助の効果を高めますが、それだけではなく、国際場裡における主張から援助の現場における実践まで整合的な対応をとることが容易になります。

(2) 異なる援助手法間の連携の促進
  2006年5月に成立した行政改革推進法により、JBICの円借款業務は2008年10月に発足する新JICAに承継されることになりました。これを受けて、2006年11月、「独立行政法人国際協力機構法の一部を改正する法律」が国会で成立し、技術協力、有償資金協力、無償資金協力が基本的に新JICAの下で一元的に実施されることになりました。この改革によって、新JICAは資金規模から見て世界有数の援助実施機関となります。また、調査や案件形成・実施の段階で援助手法間の連携を強化し、より効果的・効率的な援助を実施していく方針です。特に、新JICAに移管される無償資金協力については、国から独立行政法人に移されることにより従来より柔軟な運用が可能となるため、3つの援助手法の有機的な連携を確保しつつ、より柔軟なタイムフレームで案件形成や迅速な実施の決定を行うことができます(注11)。また、3つの援助手法に総合的に精通した人材の育成も重要な課題です。

JICAの改革への取組と新JICA設立に向けた準備

  JICAは、2003年の独立行政法人化以来、「JICA改革プラン」に基づき「現場主義」を掲げ、開発途上国の様々な開発課題により的確かつ迅速に対応できるよう、在外事務所の体制を強化しています。また、国内においては「国内事業の改革」と「国内機関の再編」を柱とし、現地プロジェクトと国内研修の一体化や地域ブロックごとの機能・配置の見直し、市民への情報発信機能の強化などに取り組んでいます。これら一連の改革により、JICAは開発途上国の援助需要に的確に即応できる政府開発援助の実施体制を整えていく方針です。JICAは、2006年度を「改革の総仕上げの年」と位置付け、実施機関として、技術協力事業の質の向上を図るための戦略性強化、プログラム化の促進、および研修成果の発現促進などの取組を行いました。
  また、JICAとJBICの間では、以前からの情報・意見交換に加え、(1)現地ODAタスクフォース(注12)などを通じた案件の策定・準備のための協議の実施、(2)具体的な案件の実施および完成後の維持管理、(3)人事交流の推進-などを通じて連携がより強化されてきています。現在外務省、JICA、JBICは、2008年10月に予定されている新JICA設立に向けて鋭意準備作業を進めているところです。

囲み 5 二国間援助(バイ)と国際機関(マルチ)を通じた援助の連携事例

(3) 円借款の迅速化
  円借款業務の迅速化は、途上国における開発事業の効果発現を促進し、日本の援助の戦略的な有用性を一層高める観点から有益です。そのために、日本政府は2007年6月に「円借款の迅速化について」を策定し、案件形成、借款要請・供与、事業実施の各段階の迅速化のための具体的な諸施策を、相手国政府の協力を得つつ、順次導入していくことを明らかにしました。これらの施策が着実に実行され、円借款の迅速化がなされるよう、引き続き努力していきます。

円借款における本邦技術活用条件制度
STEP : Special Terms for Economic Partnership)

  STEPは、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を進めるために、2002年に導入された制度です。STEPの条件では、契約先は日本企業に限定されており、開発途上国の現場での日本企業による事業実施と技術の活用を通じ、日本の「顔の見える援助」が一層促進されることとなります。



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