第3節 人間の安全保障

1. 「人間の安全保障」とは何か

  近年、グローバル化の進展により、人、モノ、カネ、情報が大量かつ急速に移動し、人、武器、薬物の密輸や感染症の拡大を引き起こしています。また、経済の拡大は地球温暖化などの環境問題やエネルギー問題を深刻化させることとなりました。さらに、冷戦構造の崩壊は宗教・人種・民族などを要因とする紛争の引き金となり、難民・国内避難民、対人地雷・小型武器などの問題を顕在化させることとなりました。これらの問題は、それぞれが独立しているのではなく、相互に複雑に絡み合い、人々の生存・生活を脅かしています。
  このような問題に対しては、国家がその国境と国民を守るというこれまでの伝統的な「国家の安全保障」の考え方から対処するだけでは十分ではなく、「人間一人ひとりの視点」からこれらの問題の相互関係をとらえ、包括的に対処する必要があると考えられるようになりました。このような状況に対応するため、1990年代半ば以降新たに「人間の安全保障」という概念が登場しました。
  「人間の安全保障」とは、人間の生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、人々の豊かな可能性を実現するために、人間中心の視点を重視する取組を統合し、強化しようとする考え方です。
  人間の生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から政府・国家が人々を「保護(Protection)」することが重要であるとともに、そのような脅威に対して、個人・コミュニティが自ら対処することができるよう、個人・コミュニティの「能力強化(Empowerment)」を図ることが重要です。
  人間の安全保障の考え方が目指すものとは、相互依存が深まる世界の中で関連し合う多様な脅威に効果的に対処していくために、国家、国際機関と市民社会の様々な主体が力を合わせ、人々の潜在力を引き出すことができるような社会をつくり、それを持続させていくことにほかなりません。


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