5. 外交基盤の形成

  このように、日本が開発途上国の経済社会の向上に取り組み、また時代が要請する喫緊の地球的規模の問題に取り組むことは、国際社会における日本の評価を高め、結果として、日本の外交基盤を強固なものにします。

(1) 幅広い担い手による日本の国際協力の推進
  日本は、開発援助を実施するにあたり、国づくりの基礎は人づくりとの考えの下に、日本人が開発途上国の現場において、現地の人とともに汗を流しながら協力をすることを重視しています。技術協力の一環として、現在、7,895人(注7)の専門家が開発途上国に派遣されています。これらの専門家は協力の各分野において高い職業意識を有し、日々の経験と実践を積み重ねながら、技術力を磨いてきたその道の達人であり、開発途上国において最高の指導力を発揮します。現在、4,407人(注8)の青年海外協力隊員、1,212人(注8)のシニア海外ボランティアが開発途上国に派遣され、現地の人々の懐に飛び込み、情熱を持って自分の経験をいかした活動を行っています。また、日本は、4万1,725人(注9)の研修員を受け入れています。これには、地方自治体を含めた公的機関のみならず、大・中小の民間企業、大学、研究所など多くの組織が関与しています。

高槻市の病院での研修の様子
高槻市の病院での研修の様子(写真提供 : 今村健志朗/JICA

  また、技術協力以外の援助手法、例えば円借款や無償資金協力においても、日本企業が事業を受注した場合には、技術者、施工監理者などの企業関係者等、多くの日本人がその実施を支えます。
  また、現在、世界で活躍する日本のNGOは、400以上ありますが、このうち163団体(注10)のNGOは政府資金を活用し、開発途上国の草の根に届く支援を行っています。日本のNGOは草の根レベルの重要な担い手として、日本の国際協力活動の重要なパートナーです。その他、政府開発援助案件の形成段階では、コンサルタント会社の調査員が活躍し、また、事業の評価などについては、学者や一般国民などが関与します。このように、日本の政府開発援助は幅広い日本人の尽力によって実施されています。経済協力の実施を支える日本人の多くは、協力にあたり、開発途上国の関係者、住民と寝食を共にしながら、一緒に汗をかきます。問題があるときには、現地の人々と納得がいくまで話し合い、最善の策を探します。日本の国際協力の在り方について、かつて、人的貢献が不十分であると批判されたことがありましたが、それは当たらず、日本は「日本人が現地で汗をたっぷり流す」国際協力を行ってきたといえます。

(2) 世界に支持された日本方式
  また、このような開発途上国の現場における日本人の貢献により、日本人が連綿と培ってきた「働くことに対する価値観」ともいうべきものが開発途上国に伝えられています。飽くことなき品質向上へのこだわりやユーザー第一主義、時間や約束の厳守、作業工程の改善のための自己努力、安全や環境に対する配慮などは開発途上国に伝えられ、意識の変革を生み、場合によって新たな標準として受け入れられています。
  例えば、インドのデリー市民、1日当たり60万人が利用する地下鉄(デリーメトロ)は、日本が1996年度から円借款供与により協力することで建設されたものです。この協力を通じて、日本の技術者により、工事現場における安全確保の取組や工事の時間管理の方法が伝えられました。今では、インドの地下鉄関係者の間では「ノウキ(納期)」という言葉が使われています。

→ コラム 6 も参照してください

  また、日本の様々な組織の現場においては、現場で働く人たちによるミーティングを通じた日々の改善が行われています。この「改善」という手法もまた、開発途上国に受け入れられています。例えば、モンゴルでは、日本の技術協力の拠点である「日本人材開発センター」のビジネスコースの受講者が、自発的に「カイゼン協会」を設立し、企業の改善を推進し、具体的な売上げの向上や新製品の開発などの成果を上げています(注11)。他にも、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ/習慣化)、コウシュウ(公衆衛生)など日本発の方法や考え方が、言葉とともに開発途上国に受け入れられている例は枚挙にいとまがありません(注12)
  この積み重ねが、日本人に対する信頼や親近感を醸成し、日本の外交にとって大きな資産となっています。すなわち、日本は政府開発援助を中心とする国際協力を通じて、日本にとって望ましい国際環境を形成しているのです。日本は先進国の中でも、国際協力の手段が限られています。例えば、G8諸国が国連平和維持活動(PKO)に派遣する要員の数は、総計6,600人以上に上りますが、日本がPKO法に基づき派遣している要員数は53人にすぎません。日本外交の基盤を支える政府開発援助の役割はそれだけ大きいといえます。

モンゴルにおける親日感の醸成

  2007年はモンゴルと日本が外交関係を樹立してから35周年にあたり、「モンゴルにおける日本年」として、両国の友好関係を象徴する各種行事がモンゴルにおいて開催されています。モンゴルにおいて民主化、市場経済化への移行が開始した1990年代初頭から、日本は一貫して同国への支援を行ってきました。例えば、首都ウランバートル市の電力供給にとって最も重要な設備の一つであるウランバートル第4火力発電所に対して、無償資金協力、技術協力、円借款を通じ15年にわたり改修工事や運営改善を行ってきました。これにより、発電設備の効率化が図られるとともに経営・技術レベルが大きく改善され、発電所が効率的に運営されるようになり、安定した電力供給を通じた市民生活の向上や大気汚染の防止に大きな貢献をしました。特に、長年にわたる日本人専門家およびシニア海外ボランティアの派遣は、第4火力発電所の職員の間で日本に対する尊敬と友好の気持ちを醸成し、2004年の新潟県中越地震に際しては、同発電所の職員が全員休日出勤し、その手当全額を被災者に寄付しました。また、モンゴル政府も公式の義援金口座を開設し、一般の市民からも広く寄付が寄せられました。なお、モンゴルからは、1995年の阪神・淡路大震災の際にも、当時の副首相が被災者のための毛布や手袋を満載した特別機で関西空港に駆けつけてくれたのですが、震災直後の日本側に迷惑をかけてはならないという気持ちから、支援物資を引き渡すとただちに本国に戻ったというエピソードもありました。このように、国際協力を通じて培われた開発途上国との信頼関係が日本の外交基盤を形成しています。

ウランバートル第4火力発電所で活動中のシニア海外ボランティア
ウランバートル第4火力発電所で活動中のシニア海外ボランティア
(写真提供 : 今村健志朗/JICA)

コラム 1 青年海外協力隊

青少年交流や留学生の受入

  外交基盤の形成には、相互理解・対日理解の促進、親日感の醸成のために、諸国との間で人物交流を推進することが重要です。その中で、日本は、将来を担う青少年の交流や留学生の受入を推進しています。2007年1月に開催された東アジア首脳会議(EAS)で、安倍晋三総理大臣(当時)は「EAS参加国を中心に、今後5年間、毎年6,000人程度の青少年を日本に招く350億円規模の交流計画を実施する」旨明らかにしました(「21世紀東アジア青少年大交流計画」(注13))。この計画の一環として、2007年度は、中国から約2,000人、韓国から約1,200人、ASEAN諸国から約800人、インドから約200人等、合計約4,800人の青少年(中学生・高校生、大学生等)を招へいし、日本の青少年約300人を韓国に派遣する予定です(注14)。また、留学生受入としては、国費留学生の受入や私費留学生の支援等を行っています(「留学生交流推進事業(注15)」、「人材育成支援無償(注16)」、「留学生借款(注17)」、「国連大学私費留学生育英資金貸与事業(注18)」)。



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