コラム 20 経営者への「依存」から自分たちで行動する「責任」へ ~スリランカ紅茶農園での取組から~

  私たちにもなじみ深いセイロンティーを生産しているスリランカの紅茶農園。そこで働く農園住民の多くは、19世紀イギリス植民地時代にインドから連れてこられたタミル人の子孫です。彼らの生活は、国民の多数を占めるシンハラ人農園経営者の管理下にあり、地理的にも都市部から離れていることから、経済的、社会的に隔絶されています。
  例えば、多くの農園住民は国民IDや出生証明書といった公的証書を持たず、その結果、自由な移動が制約され、銀行口座の開設もままなりません。加えて不衛生な住環境、栄養不足、アルコール依存、若者の労働意欲低下等の問題も抱えています。しかし住民に自ら状況を変えようという動きは見られません。これは何世代にもわたって続いてきた経営者側の支配と住民側の依存という構図の結果です。
  (財)ケア・インターナショナル・ジャパン(CARE)のプロジェクト・マネージャー栗原俊輔さんは、2003年からこのような農園で活動を行っています。まず、住民の「仕方ない」というあきらめを「これで良いのだろうか」という疑問に変え、意識改革をすることが必要でした。そのために、CAREは「参加型チーム(PT)」と呼ばれる住民と経営者30人程度の小グループを組織化しました。そして住民が自分たちの問題として、生活改善の方法について経営側と対話・交渉を行うために必要な「情報収集→問題点の整理→解決策の検討→記録の作成と情報伝達(広報)」の一連のスキル訓練を行いました。
  さらにCAREは約9,600世帯が居住する15の農園すべてにおいて、日本でいえば「市民の窓口」に相当する「インフォメーション・センター」を開設し、行政手続きや銀行・郵便サービスのほか、アルコール依存、保健および栄養に関する情報などを得られるようにしました。また、地方行政官が週1回巡回し、手続きや相談業務も行うようにしました。このセンター運営の中核を担うのもまたPTです。
  その結果、住民、経営者側双方に共同で生活改善を行う機運が生まれ、実際に住民の生活に大きな変化が見られるようになりました。住民自らが託児所のトイレを修繕し、ゴミ集積場を使いやすくするなどの取組も行われるようになり、また、経営者側もセンターに電気や水道を供給するなどの協力を行うようになりました。
  栗原さんはこう説明します。「『インフォメーション・センター』が設置されたことで住民の意欲も更に高まりましたが、その後、実際の成果を出すまでの過程もとても大事です。PTを通じて集会や実地訓練を重ねていく中で、住民自身が農園の現状を理解し、権利と責任を自覚し、能力を高めていくことが必要なのです」
  持続可能な個人の自立と市民社会の能力強化を促すこの支援は、日本が重視する「人間の安全保障」の視点に立って行われているもので、CAREはJICAの草の根技術協力事業(草の根パートナー型)(注)としてこのプロジェクトを実施しています。CAREの取組は、市民社会を強化するためには、住民の中に「行動すれば変わる」という“気付き”を生む手助けをするのが重要であることを示しています。現在もプロジェクトは進行中で、事業が終わった後も自主的に継続できるマネジメント能力の強化を目指しています。

インフォメーション・センターの入り口で現地スタッフと話す栗原さん(中央)
インフォメーション・センターの入り口で現地スタッフと話す栗原さん(中央)
(写真提供 : CARE)

証明申請書を掲げる地方行政官(左)と申請をした住民(右)
証明申請書を掲げる地方行政官(左)と申請をした住民(右)
(写真提供 : CARE)


注 : 日本のNGO、大学、地方自治体、公益法人団体等が、これまでに培ってきた経験や技術をいかし、開発途上国で国際協力を行う際、JICAがその活動を支援し、共同で実施する事業。



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