コラム 18 モーリタニアで柔道教室を! ~システム科学コンサルタンツ株式会社 山本圭一さん~
モーリタニアは、アフリカ大陸の北西部に位置し、国土のほとんどが砂漠です。そのため、農業生産量は低く、産業の近代化も思うように進んでおらず、国家の収入の大部分を、主に内陸部の天然資源とタコ、イカ等の水産物に依存しています。このような状況に対し、モーリタニアでは、貧困削減と経済発展の基礎となる「人づくり」を重要な政策課題として位置付け、とりわけ初・中等教育に力を入れています。
しかし実際には、生徒を通わせるはずの小学校や中学校の整備が生徒の数に追いついておらず、例えば首都ヌアクショットの小学校では1教室当たり83人、中学校では69人もの生徒が詰め込まれている状態です。そこで、日本は無償資金協力で1997年から首都ヌアクショットの小学校教室建設に協力してきましたが、都市部における初等・中等教育の環境整備をより一層進めるべく、2005年からは、小学校および中学校の教室や特別教室を整備・建設する支援が行われています。このプロジェクトは、3年間で小中学校合わせて51校・335教室を建設するもので、今までに40校・290教室が整備され、1教室当たりの生徒数はそれぞれ57人に緩和されています。
今回の主人公である山本さんは、常駐監理者としてこの学校建設に携わったコンサルタントの一人です。国際協力の現場では、現地の事情と事業内容の両方を熟知しているコンサルタントが、依頼主である開発途上国政府と建設会社の間に立ち、建設方法、スケジュール等々、様々な分野について東奔西走して指導・監督を行うことが、プロジェクトを前に進めるために不可欠です。
山本さんは、大手建設会社に勤める海外工事の経験豊富な建設マンでしたが、1999年に、高校時代の同級生で柔道部仲間であったシステム科学コンサルタンツ株式会社の社長から「モーリタニアに行ってくれないか」と、声をかけられたことがきっかけで、2年間の小学校建設工事の監理に携わりました。海外工事では、必ず柔道着とギターだけは現地に持参していました。学生時代に柔道部に所属していたこともあり、仕事の合間に柔道場を探しました。しかし、モーリタニアには柔道場は一つもありません。それならば、ということでなんと、山本さんは手づくりの柔道場をつくります。有志から提供された柔道着を200枚ほど、わざわざ日本から持っていきました。そして道場「山本」として柔道教室を始めることになりました。最初は3人からスタートした教室ですが、そのうち評判が広まって、徐々に生徒も増えてきました。同じ1999年に日本の文化無償資金協力により、道場「山本」に畳が送られたこともあり、本格的な柔道場が完成しました。
山本さんは、2001年にモーリタニアを離れ、日本に戻りましたが、今回のプロジェクトのため、2006年に再度モーリタニアに赴任したところ、道場「山本」では、35人の生徒がずっと柔道を続けていました。「小さい子どもだった生徒たちが大きく成長し、また自分を歓迎してくれたのが大変うれしかった」と山本さんは当時を振り返ります。最初は礼儀作法や、一つのことに集中することの大切さがなかなか理解されませんでしたが、粘り強く指導を行った結果、現在では西アフリカ大会で優勝を争うまでに成長した生徒もいます。
山本さんは、モーリタニアで柔道を通じて、日本の考え方を現地の人々に伝えました。また、2回にわたる小中学校建設に携わり、建設会社に勤めていたときとは違う達成感を得たそうです。「開発途上国で道路や橋をつくったら、その経済的な効果が数字で表されます。しかし、今は、教室が完成した翌日に、たくさんの子どもたちがその新しい教室で授業を受けているのを目の当たりにすることが何よりもうれしい・・・」。学校建設と柔道教室-一見何のつながりもないように思えるこの2つの活動ですが、山本さんの精力的な活動はしっかりとモーリタニアに根付いています。このことは、日本とモーリタニアの今後の友好関係にも寄与するものとなっています。
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建設現場で、学校に通う子どもとその親たちに説明をする山本さん
道場「山本」で実際に柔道を指導する山本さん
子どもたちとの触れ合いを楽しむひととき
(写真提供 : 山本さん)