石油大国サウジアラビア(注)では、国全体での省エネに関する政策や方策などが十分ではなく、一般にはまだまだ省エネ意識が希薄です。この状況に危機感を持つサウジアラビア政府からの要請により、日本の技術協力の一環として、東京電力は2007年2月から開発調査を実施し、マスタープランづくりに協力しています。
省エネの対象分野は産業界、一般家庭、政府機関など多岐にわたり、省エネ方策を実行するための関係組織も極めて広範囲です。多くの関係者の意見を集約すべく、現地では頻繁にワークショップを開催しており、そこではいつも熱い議論の連続です。
例えば、日本における26の省エネ方策を紹介し、サウジ流に適用したらどうなるか、という内容で実施したときのことです。夏には気温が45℃を超えますから、日本が用いている試験データや方法をそのまま利用することは困難です。また、日本ではメーカーが性能試験を実施し、家庭電化製品に省エネ性能を表示する「ラベリング」を行っていますが、家庭電化製品の多くを輸入しているサウジアラビアでは、同じように進めることはできず悩ましいところです。あるいは組織体制の違いもあります。日本には、広報活動やエネルギー管理士試験を実施する「財団法人省エネルギーセンター」、省エネ事業を公募して政府補助金を交付する「独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)」など、省エネを実践していくための機関が確立されていますが、サウジアラビアではこれから考えていかねばなりません。
ワークショップでは、突っ込んだ質問がされるたびに、我々も負けじと解説に入り、それらの丁々発止でなかなか前に進みません。しかし、現地の人が納得するまで、とことん話し合うことが、結局早道なのだと考えています。イスラム教の中にも、物を大切にするという教えがあるようです。本来的には省エネを受け入れられる下地があると思われますので、これから考える省エネ方策も、政府側の企画力と実施能力をうまく強化できれば、国民にも広く浸透していくものと信じています。
![]() |
![]() |
一歩外に出て調査をする際には、サウジアラビアならではの苦労もあります。住宅セクターの省エネ実践状況などを調査するため、一般家庭の訪問もします。しかし、実際に住宅を訪問して聞き取り調査を行う際には、イスラムの教義上、外部の男性は家庭にいる女性と直接話ができないため、家長の男性を通じて行うことになります。家庭の省エネの主役は女性の場合が多いので、女性が行っている内容を男性を通じて聞き出すのが難しいところです。
また、省エネの実践方法を検討するために、あるお宅に電力計を取り付けて電気使用量のデータを計測しました。まず現状のデータをとってみると、驚いたことに、一日の消費電力のピークが夜間から朝方にかけて記録されていました(下図参照)。寝る際にエアコンがつけっぱなしと容易に想像できます。このお宅に、エアコン・電灯のこまめな入り切りやエアコン設定温度の変更など省エネ実践指導を行い、その後の使用量を計測しました。すると、こちらの思惑とは裏腹に使用量が増えています。原因を調べてみると、6月中旬は子どもたちが期末試験の準備で、早く帰宅し夜まで勉強していたことが発覚。なかなか一筋縄にはいきません。
日本と気候や文化の異なる国での作業ということもあり、こちらの思いどおりにはいかない毎日ですが、困難もまたマンネリ化を防ぐ一服の清涼剤と考え、サウジアラビアが中東の省エネ大国と呼ばれる日を夢見て、日々調査にまい進しております。
![]() |
注 : サウジアラビアは世界最大の原油確認埋蔵量を有する、日本に対する最大の原油輸出国である。2008年には政府開発援助(ODA)卒業国となることが見込まれている。今後、日本は政府開発援助による支援については、徐々に終了していくことになるが、サウジアラビアにおける日本の民間企業の活動を側面支援するなどにより、エネルギー外交の重点国である同国との関係強化を図っていく。