コラム 11 一滴でも多くの水を一人でも多くの人へ ~ニジェールのザンディール地方で井戸を掘った、株式会社 日さく 古賀孝さん~

  ニジェールは年間降水量(注1)が少ないため、慢性的な水不足に悩まされています。また、不衛生な水を生活用水として利用せざるを得ない住民が多くいるため、水が原因で引き起こされる様々な疾患が多発し、大きな社会問題となっています。そこでニジェール政府は、安全な水へのアクセスを容易にするため、給水率を2010年までに100%(2000年では51.5%)にすることを目標とし、水分野に対する取組を強化しています。
  その一つとして、ニジェール政府は、UNICEF、WHOなどの協力の下、不衛生な水を起因とするギニアウォーム症(注2)の撲滅計画を実施しており、主に、地下水開発によって給水施設を整備したり、住民に対する啓発活動を行うことで疾患数を減らす試み等が1993年から始まっています。日本も1997年から2000年にかけて、無償資金協力により、特にギニアウォーム症の発生が多いザンディール県で167本の深井戸の整備を実施しました。こうした協力の結果、ギニアウォーム症の疾患率が低下したため、さらに2004年から2006年までの間に、無償資金協力により井戸を93本整備し、88村落、8万210人の住民が、井戸から安全な水を飲めるようになりました。
  対象地域では、ギニアウォーム症の患者が、2000年から2002年には112人発生していたのが、日本の無償資金協力により井戸が建設された村落では2007年には0人となるなど、顕著な成果が現れています。また、この地域では、地質の関係から井戸の掘削が困難とされ、掘削を諦める声もある中、日本の関係者が粘り強く掘削を行ったことが現地でも高く評価されています。そのうちの一人、株式会社 日さくの古賀さんに、プロジェクトのお話をお伺いしました。

完成した井戸を使う地元の女性たち
完成した井戸を使う地元の女性たち
(写真提供 : JICA)

実際にプロジェクトに参加し、どういったことに苦労や難しさを感じましたか。

  プロジェクト対象地域が首都から遠く、またとてつもなく広いことに苦労させられました。首都ニアメから東北東へ約1,000キロ離れたザンディールという町を拠点として、その施工区域は、東西120キロ、南北110キロもありました。担当の役所との打合せ、不足資材の調達等でニアメまで出かけることになりますが、一度の出張が1週間に及ぶのが常でした。
  また、最大の悩みは井戸を掘削するプロジェクトでありながら、水が出る井戸を得られなかったときです。本プロジェクトの計画はもともと成功率の低いことが予想された岩盤地区でしたが、93か所の施設を完成させるために、不成功井を含み予定数量の倍近い井戸を掘ることになりました。地下水の有無による不成功井は自然条件によるものなので、施工者の技量には関係しませんが、わずかな望みでも大きく期待していた村人の落胆の顔を見るのは、施工者として過剰な期待感を与えたのではないかと非常なる辛苦でした。


プロジェクトを通じて、感動したこと、うれしかったことは何でしょうか。

  掘削の成功率が悪かったわけですが、成功率が悪い中にも施工者が何とか地下水を掘り当ててくれたと村民が理解し、私たちの労をねぎらってくれたときです。これまでは水くみに10キロくらい徒歩あるいはロバで行っていた村なので、水量が少なくても、飲料水が確保できたときに村人が握手を求めたり、食事に誘ってくれたり、子どもが揚水試験中の水たまりで遊んでいるのを見ると、こちらも苦労したことを忘れ、うれしくて仕方ありませんでした。

現地の事務所で机に向かう古賀さん
現地の事務所で机に向かう古賀さん(写真提供 : 古賀さん)


日本の国際貢献の在り方について、何かご意見があればお願いします。

  生きていくために必須である水を一滴でも多く確保するために、開発途上国の発展に少しでも寄与したいという使命感を持ってアフリカで仕事を続けていますが、厳しい自然条件、劣悪な生活環境での苦労は並大抵なものではありません。そんな中、心がいやされるのは村民との触れ合い、子どもらとの語らいのときです。また、得られた地下水を地元の人々が満面の笑顔ですくっているのを見ると、悩みや疲れは吹っ飛びます。自己満足かもしれませんが国際貢献の一端を担っているという喜びを感じるときでもあります。
  日本の援助は高度な技術を使って、品質の高い施設をつくって供与するところにその意義、役割があるのでしょうが、「顔の見える援助」という観点から、日本人がもっともっと積極的に現場に関与して人と人との触れ合いの機会を増やすことも必要ではないでしょうか。結果、そこには小さいながらも人と人との交わりが芽生え、これが国と国との大きな友好関係につながるものと確信しています。


注1 : 年間雨量は、300mmから800mm。
注2 : ギニアウォームは、水中のミジンコに卵の状態で寄宿し、生水を通して人体に入ると、半年から1年で体長1メートルにまで成長する。成虫になると排卵のため体内を徘徊し、人間の皮膚を食い破り、外に出ようとする。そのときの痛みは、想像を絶するものといわれ、歩行困難、食欲低下を引き起こし、重症の場合は死に至ることもある。



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