コラム 4 スリランカの安全な血液供給を支える ~ハードとソフト、日本からのダブル支援の相乗効果~

  スリランカでは近年、高齢化が進むとともに、心疾患・脳血管疾患が増え、高度医療の導入に伴う輸血血液需要の増加が見込まれています。しかし、施設の老朽化、採血・検査・血液保管等に必要な設備や教育・研修スペースの不足等により、血液の供給システムは不十分な体制となっていました。日本は、この状態を改善するための要請を受け、スリランカの保健セクターに対して、初の円借款による支援を2000年度から行っています。これは築150年以上たっていた中央血液センターを再建し、中央および州血液センターへの機材供与を行い、安全で効率的な血液供給のための基盤整備を図るものです。本事業の実施機関であるJBICは、コンサルティング部分について円借款案件として初めてWHOと連携しました。WHOから、適切な血液管理・輸送を行うための中央血液センターの設計デザイン、機材リスト、その他技術面での助言を受け、JBICはそれらを事業にいかすことで、より効果的な支援を実現しました。
  また、JICAとの連携により、福岡県赤十字血液センターでの本邦研修も行われました。同センターでは、WHOのアドバイスを受けたスリランカ側の要望に基づき、主に、GMP(注1)に基づいた業務の習得を目的とした研修プログラムが作成されました。研修員は、採血現場から製剤・供給部門まで、血液の一連の保管管理状況を見学したほか、献血推進活動、品質管理等についての講義を受け、製剤・検査業務の実習を行いました。2005年から毎年10人ずつ参加していますが、多くの研修員から、知識・技術だけでなく日本人の勤務意識から影響を受けたという声が聞かれています。研修員のチームリーダーだったマンチャナヤケ医師は「研修は詳細に予定が組まれており、内容も的確でした。また、日本人の時間の正確さや勤勉で謙虚な取組姿勢から多くを学びました」と感想を述べています。
  プログラムには「職場での勤務意識」という項目も組まれていましたが、何か特別な手法が用いられたのでしょうか。センターで研修を受け持った徳永和夫技術部長は次のように話します。「実は、研修前に、スリランカから血液センター所長や政府の方々がセンターの様子を見学に来られた際、見学者がいても黙々と業務を続ける日本人スタッフの姿を見た彼らから『研修員にこういう勤務意識を教えてほしい』と言われました。しかし、情報共有やインシデント報告システム(注2)など、組織での勤務姿勢や意識付けについての講義は行いましたが、勤勉さや謙虚さといった態度はこちらから教えようとして教えられるものではありません。来日した研修員たちは、皆、非常に熱心で積極的でした。私たちがどのように働いているかを実際に見ることで、自分たちの仕事にもいかしてくれているのだと思います」
  事業開始後、スリランカの献血率全体が15%増加したとの報告もあり、JBIC、JICA、WHOの初の連携プロジェクトが着実に成果(注3)を上げていることを示しています。
  スリランカ側の総責任者である、保健省血液事業部のビンドゥサラ局長は「日本の支援のおかげで、血液供給サービスが向上したことに感謝しています。新しい施設、高度な技術の機材、人材の育成等を通してシステムが大きく改善され、量・質ともに安全な血液を供給する基盤が整いました」と述べています。
  円借款事業では、インフラ整備や建造物などハード面に焦点が当てられがちです。しかし、本事業のように、国際機関や、本邦研修などの技術協力を実施しているJICAとの連携を図ることで、より専門的なニーズに合った建物の建設が可能になり、さらにそこで働くスタッフの知識や技術を充実させるという、ソフト面も含めた総合的かつ有機的な援助効果を生むことができます。2008年10月から、JBICの有償資金協力業務はJICAに継承され、技術協力・有償資金協力・無償資金協力は新JICAの下で一元的に実施されます。日本は今後も、援助手法間の協調により、ハード面とソフト面を融合させた支援や、国際機関の知見を活用した支援を推進していきます。

真剣なまなざしで見学をする研修生たち。左端が徳永技術部長
真剣なまなざしで見学をする研修生たち。左端が徳永技術部長(写真提供 : 福岡県赤十字血液センター)

2006年11月に完成した新しい中央血液センター
2006年11月に完成した新しい中央血液センター(写真提供 : JBIC)

注1 : GMP:Good Manufacturing Practiceの略。一般に、優れた医薬品などを製造するために必要な製造所の構造設備や製造管理および品質管理全般にわたって業務に携わる者が守るべき要件などを定めたもの。
注2 : インシデントとは、日常の現場で事故には至らなくとも「ヒヤリ」、「ハッ」とした経験(ヒヤリ・ハット事例という)を意味する。これらの事例と実際に事故に至った事例(アクシデント)を収集し、分析することで、事故を未然に防ぐための安全対策を支援するシステム。
注3 : 世界銀行など他ドナーの支援も含めた全体的な数値として、2008年までに確保すべき献血量30万ユニット(500ml/ユニット)の達成率が、2001年では50%(15万ユニット)であったが、2006年には80%(25万ユニット)にまで伸びたことが挙げられる。2008年には100%達成する見込み。日本の本件支援は、この達成率の改善に貢献したほか、確保した血液の安全な保管・配布などのために不可欠なシステムを提供している。



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