資料編3,4,5章 > 第4章 > 第2節 > 4 英国
4 英国
(1)援助政策等
英国は、開発途上国における貧困削減を援助の最終目標として掲げ、このために貿易、投資、債務、農業、環境等関連部分を統合した総合的見地からの開発途上国の開発支援を目指している。2002年1月には、持続可能な開発の促進及び人々の福祉改善を通じた貧困削減が開発の目的であることを明記した「国際開発法」が成立し、同法は現在の英国ODA政策の根幹となっている。
また、各省庁と大蔵省の間で取り決められた2005/06年度からの3年間における政策目標を提示した公共サービス協約(PSA:Public Service Agreement)において、国際開発省(DFID:Department for International Development)はMDGsの達成を中心に、以下の重点目標を挙げている。
[1]サブ・サハラ・アフリカにおけるMDGsに向けた進展(貧困削減、初等教育の普及、幼児死亡率の削減、安全な出産の普及、HIV/エイズ妊婦の削減、効果的な援助とアフリカ開発への国際的な政策を確保するためのパートナーシップの向上等)
[2]アジアにおけるMDGsに向けた進展(貧困削減、初等教育の普及、幼児死亡率の削減、安全な出産の普及、HIV感染及び結核対策等)
[3]国際システムの効率化(欧州委員会の低所得向けのODAの割合増加、重債務貧困国に対する国際的な協力、MDGsに向けた国際的な協力、国連機関と人道支援システムの効率化等)
[4]EU及び世界の貿易障壁の削減
[5]紛争防止及び紛争後復興支援の強化(外務省及び国防省との共同目標)
[6]二国間援助の低所得国に対する重点的な供与(少なくとも90%以上)
2004年の英国のODA実績は78億8,269万ドルであり、対前年比25.5%の増加となった。英による対外援助額の増加傾向は今後も継続する見通しで、現計画では2013年までにGNI比0.7%を達成する予定。DFIDは、特に対アフリカ支援に関する支援に重点を置いており、2005年における対アフリカ支援額は04年比で約22%増、英として初めて10億米ドルを突破する見込みである。なお、DFID全体総予算額は、2005/06年度の約45億ポンドから2007/08年度には、約53億ポンドと大幅に増加となる計画である。
重点地域としては、アフリカ(コンゴ民主共和国、エチオピア、ガーナ、ケニア、レソト、マラウィ、モザンビーク、ナイジェリア、ルワンダ、シエラレオネ、南アフリカ、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ)、アジア(バングラデシュ、中国、インド、パキスタン、アフガニスタン、ネパール、カンボジア、ベトナム、インドネシア)の25か国をあげている。
英国の援助は原則として無償であり、2001年4月より、英国の二国間援助は100%アンタイドとなっている。
英国による国際機関を通じた援助の比率は2004/2005年度で43%と高く、中でもEUを通じた援助はDFID予算全体の26%を占めている。このため、英国はEU、多国間、及び国際機関による援助効率の向上を重要視しており、援助効果に関するパリ宣言に対するコミットの他、国連機関の統廃合問題等にも積極的である。他方、二国間援助においては、個別のプロジェクトだけでなく開発途上国政府による貧困削減政策のための一般財政支援に力を入れており、現在はDFID援助額の約20%である援助額を今後も増額していく方針である。
英国は2005年7月グレンイーグルズG8サミットにおいて議長国としてアフリカを議題に取り上げ、関係諸国による対アフリカ援助額倍増(2010年目標)、ナイジェリア及び重債務貧困国に対する債務免除の他、保健・教育・経済成長・平和と安定を含む幅広い支援策の合意を実現した。現在、英国はこのG8サミットでの約束事項のフォローアップに積極的であり、他国及び国際機関に働きかける他、英国自身も教育関連長期支援策(10年間)として85億ポンドの拠出決定、国連腐敗防止条約調印、革新的資金メカニズムの開発(国際金融ファシリティ)、アフリカにおける平和維持軍の訓練等を率先して行うなど、ドナー国として主導的な役割を果たしてきている。
対アジア支援として、2006年1月にアフガニスタン復興に関する国際会議がロンドンで開催された際、英国は5億ポンドの拠出を宣言すると共に10年開発パートナーシップをアフガニスタン政府と締結した。また、2006年3月には「アジア2015」会合を世銀及びアジア開発銀行と共に主催、対アジア開発に関する関連諸国の関心を高めた。
自然災害対応については、2005年のパキスタン地震の際は合計約1億2,800万ポンド(£)、2004年のスマトラ沖大地震・インド洋津波支援の際は約1億4,000万ポンドを拠出している。
なお、近年、英国は日本との援助協調に積極的であり、2003年10月にはベトナムにおいてアジア地域援助効果ワークショップを日本・ベトナムと共に主催した他、2004年12月にはバングラデシュ、2005年5月にはタンザニアを外務省(日本)及びDFID(英国)の幹部が共同で訪問する等、相互協力の進展が具現化されている。2006年10月にも、フィリピンにおいて援助効果向上にかかるアジア地域フォーラムを日本、英国、アジア開発銀行、世界銀行で共催した。
(2)実施体制
英国の政府開発援助は、援助政策の立案から実施まで、閣内大臣を有するDFIDの責任の下に一元的に行われている。また、貿易、投資、債務、農業、環境等途上国の開発に関する政策の一貫性を確保すべく、他の関係省庁との連携にも力を入れている。
DFID職員は2005/06年度で1,801名(フルタイム換算)であるが、現在、省内業務効率向上の観点から人員削減を志向しており、援助予算は増額するものの2007/08年度時点で1,610名にまで縮小される予定。
DFID海外事務所は全世界で67か所存在する。DFIDでは海外事務所への権限委譲が進んでおり、200万ポンドまでの案件で政策的判断が必要とされない案件の発掘・形成は現地で行われている。
なお、関連組織として、英連邦開発公社が開発途上国の民間部門に対するローン、株式投資の形態による支援を担当し、ブリティッシュ・カウンシルが人材育成分野での援助を実施しているほか、1997年3月に民営化された援助の資材・サービスの調達を実施するクラウン・エージェンツ、途上国向け英国輸出企業に対する輸出保証・保険業務などを行う輸出信用保証局(ECGD:Exports Guarantee Department)等がある。また、英国には古い歴史と確固とした組織基盤を持つNGOが約160存在するが、英国政府はかかるNGOを災害援助、ボランティア派遣等の面で積極的に支援しており、2004年では約3億4,204万ポンドの援助をNGO経由で行うなど、重要な援助の経路と位置づけている。


