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5.中東
 日本の中東に対する2005年の二国間ODAは、約34億7,922万ドルで、二国間ODA全体に占める割合は33.2%です。
 世界の主要なエネルギー供給地域であり、日本が原油輸入の9割以上を依存する中東地域の平和と安定確保は、国際社会全体の平和と繁栄に直結する重要な問題です。イラクやアフガニスタンの復興は、中東地域全体の不安定化を回避する上で極めて重要であり、日本は国際社会と連携しつつ引き続き積極的に支援しています。また、中東和平プロセスの進展なくして、同地域の平和と安定が達成することはありません。和平プロセス進展に向けて、日本は引き続きイスラエル・パレスチナ両当事者の和平努力を積極的に支援していく考えであり、こうした観点から、パレスチナ支援に積極的に取り組んでいます。地政学的にも重要な国であるトルコには、2006年1月に小泉総理大臣(当時)が現職の総理大臣として15年ぶりに訪問し、1世紀以上にわたる日本・トルコ関係の強化と、中東地域の平和と安定を含む国際社会における諸問題への協力の拡大で一致しました。
 中東の国々は高所得国である産油国から低所得国のLDCまで、経済状況は国によって様々です。低・中所得国における開発ニーズが高いことはもとより、高所得の産油国でも石油への過度の依存から脱却して経済を多角化することが課題であり、技術者育成などの人間開発が域内に共通する大きな課題となっています。また、水資源に乏しい中東地域では、その確保や管理が地域的な安定にも影響を及ぼし得る重要な課題です。
 こうした認識のもと、日本は、中東の社会的安定と経済的発展のために平和の定着支援(イラク、アフガニスタン、スーダン)、中東和平支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援など)、低・中所得国における経済社会インフラ整備や貧困対策のための支援、総合的な水資源管理のための支援、各国のニーズに合致した人材育成支援、環境保全対策への支援などを行っています。
 2004年6月のG8シーアイランド・サミットでは、中東諸国の改革努力を支援するためのイニシアティブとして「拡大中東・北アフリカ(BMENA:Broader Middle East and North Africa)との前進と共通の未来に向けたパートナーシップ」が打ち出されました。日本からは、中東域内諸国の多くにとって深刻な課題である雇用問題への対応を念頭に置いて職業訓練の重要性を主張しました。G8及びBMENA諸国の外相級の対話の場として「未来のためのフォーラム」が設けられ、2004年12月にモロッコで開催された第1回会合に続き、2005年11月にバーレーンで第2回会合が開催されました。同年9月にヨルダンと共催した「TVET(技術教育・職業訓練)ワークショップ」をはじめとする取組を紹介するとともに、今後、女性支援を含め、域内の人造り支援を積極的に進めていく考えを表明しました。女性支援では、パレスチナにおける母子保健手帳導入、サウジアラビアにおける女性起業家支援といった取組が2005年度から新たに始まっています。
 中東和平支援については、日本は、現在の和平プロセスが開始された1993年以降、8億7千万ドル以上の対パレスチナ支援を実施してきました。また、アラファトILO議長(当時)の死去を受けて、2005年1月に民主的な選挙を通じてアッバース大統領が就任しました。日本は、イスラエルとパレスチナが共存共栄する二国家構想の実現を支持する考えから、同大統領による和平努力を一貫して支援してきています。2005年1月に町村外務大臣(当時)がパレスチナ自治区及びイスラエルを訪問した際、日本は、人道支援、改革支援、信頼醸成支援のこれまでの3重点分野に加え、パレスチナ経済自立化支援を行っていくことを表明しました。この方針のもと、日本は、2005年2月に6,000万ドルの追加支援を決定したのに続き、同年5月にアッバース大統領が訪日した際、当面総額1億ドル程度のパレスチナ支援の実施を表明しました。このうち約5千万ドルについては、同年9月、ガザ地区からのイスラエル撤退を受けた民生安定のための緊急支援としてUNDPUNRWAを通じて実施することを決定しました。こうした国際機関を通じた支援に加え、同年秋以降、西岸ジェリコ地域を中心として、地域開発計画作成のための協力のほか、地方自治、母子保健及び廃棄物管理の分野での技術協力プロジェクトが実施されています。
 2006年1月のパレスチナ立法評議会選挙の結果、イスラエルの存在を否定し、武装闘争路線を標榜してきたハマスが第一党となり、3月末にハマスが主導する内閣が成立したことを受け、国際社会にとってパレスチナ支援のあり方が大きな課題となっています。日本は、パレスチナ人の生活状況のさらなる悪化を防ぎ、和平志向の民意を支えるために人道支援を継続しており、3月にはUNRWAおよびWFPを通じた食糧援助を実施しました。さらに7月、小泉総理大臣(当時)がパレスチナ自治区を訪問した際に、和平努力を継続するアッバース・パレスチナ自治政府大統領への支援、人道支援等からなる3,000万ドルの支援を表明しました。加えて、イスラエル、ヨルダン、パレスチナ間の域内協力を通じ繁栄する地域を創るための「平和と繁栄の回廊」構想を提案し、各首脳の賛同を得ました。
 中東諸国に対して2005年度に資金協力を決定した主な案件として、エジプトにおける「コライマット太陽熱・ガス統合発電計画」、チュニジアにおける「ボルジュ・セドリアテクノパーク建設計画」及び「太陽光地方電化・給水計画」、モロッコにおける「下水道整備計画」、「地方電化計画III」及び「マラケシュ-アガディール間高速道路建設計画」の計6案件に対する新規円借款の供与が挙げられます。
 イラクに対しては、2004年にパリクラブにおいてイラク債務の80%を3段階で削減する合意が成立したことを受け、日本は2005年11月、日本が有する約76億ドルの債権を3段階に分けて合計80%削減する二国間合意に署名しました。無償資金協力では、イラクにおける「サマーワ大型発電所建設計画」、アフガニスタンに対する「道路セクター・プログラム無償資金協力」、ヨルダンにおける「ヨルダン渓谷北・中部給水網改善・拡張計画」などの実施が決定されました。

図表II―30 中東における日本の援助実績

図表II―30 中東における日本の援助実績


「未来のためのフォーラム」に出席する浅野副大臣

「未来のためのフォーラム」に出席する浅野副大臣
「未来のためのフォーラム」に出席する浅野副大臣
アフガニスタンの空港開所式に出席する関口外務大臣政務官
アフガニスタンの空港開所式に出席する関口外務大臣政務官


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