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●マラッカ海峡の安全航行への施策
 ODAが船舶の国際航行の安全に寄与している一例としてマラッカ海峡周辺における、日本のODAを通じた取組を紹介します。
 東南アジア海域は南シナ海やインドネシア、フィリピンの近海を含み、多くの島嶼部からなっています。また、太平洋とインド洋を結ぶ交通の要衝になっています。中でもマレー半島とスマトラ島の間の水路になっている全長およそ1,000kmのマラッカ海峡は、太平洋とインド洋を結ぶ最短距離の航路です。そのため、国際海峡として重要な地位を占めており、年間約9万隻以上の船舶が往来しています。日本の関係船舶も年間約1万4,000隻往来しており、日本の貿易を支える海の大動脈でもあります。

図表I―15 日本の主要航路と海の安全確保関連のODAの供与対象国

図表I―15 日本の主要航路と海の安全確保関連のODAの供与対象国


 しかしながら、マラッカ海峡における船舶の安全航行を確保するためには様々な障害や問題に対処し続けなければなりません。第一に、マラッカ海峡は水路の幅が狭く水深が浅い上、浅瀬や沈没船などの障害物が多いため低速航行を強いられるなど、大型船舶にとって海の難所です。第二に、周辺海域では船舶の安全を脅かす海賊などの海上犯罪が頻繁に発生してきました。2005年には、マラッカ海峡を含む東南アジア海域において世界全体の約37%にあたる102件の海賊事件が発生しています。2005年3月には、マレーシア領海内のマラッカ海峡を航行中のタグボート「韋駄天」(日本船籍)が、武装集団の乗り込んだ小舟に襲撃され、日本人の船長と機関長、フィリピン人船員の3名が連れ去られる事件が発生しました。
 このように、マラッカ海峡は海の難所であることに加え、海賊の多発地域となっています。そのため、日本は、海峡の危険箇所(浅瀬など)の水路測量を行うとともに、海図の製作、航路標識の設置や維持管理のための技術協力をインドネシア、マレーシア、フィリピン等の沿岸諸国に対し行っています。また、2005年12月には、日本とインドネシア、マレーシア、シンガポールの協力により、マラッカ海峡及びシンガポール海峡の電子海図が完成しました。この電子海図の完成により、これらの海峡を通航する船舶は自船の位置を瞬時に把握できるため、航行の安全性が格段に向上しています。
 また、海賊などの海上犯罪や海難事故などに対する東南アジア海域の沿岸諸国の取組を強化するため、日本は海上保安機関の設立や能力強化を積極的に支援しています。例えばフィリピンでは、1998年に海上保安機関が海軍から独立したものの、その業務遂行能力は十分なものではありませんでした。人材育成の面においても研修教育カリキュラムの欠如、資機材の不足などから十分な体制が整っていませんでした。日本は、フィリピン海上保安機関の業務遂行能力を強化し、人材育成に関する手法を習得させるために、JICA専門家として海上保安官を派遣し、技術協力を実施しています。また、マレーシアには政策アドバイザーを派遣し、2005年に設立された海上保安機関の能力強化に貢献しています。インドネシアに対しては、政策アドバイザーを派遣して海上保安機関設立に向けた動きを後押ししており、近い将来にその設立が期待されています。
 日本は2003年度にインドネシアの沿岸無線整備事業(第4期)に対して55億6,700万円の円借款を供与しました。インドネシア近海は東アジアと欧州・中東等を結ぶ海上交通の要衝ですが、海難事故や海賊事件が多発しているため、船舶の安全確保のために沿岸無線局の整備や拡充を進める必要がありました。そのため、円借款により沿岸無線局を33局、最新の船舶自動識別装置を有する沿岸無線局を4局設置し、高品質で信頼度の高い航行安全、気象、港湾等の情報及び遭難通信の沿岸無線サービスを提供することとしました。これによってマラッカ海峡や同国海域を航行する船舶の安全確保、海上交通の整理を促進することが期待されています。
 さらに、2006年6月には、インドネシアの海上警備能力強化に向けた船舶警備に協力するための無償資金協力により、巡視船艇3隻の供与を目的とする「海賊・海上テロおよび兵器拡散防止のための巡視船艇建造計画」に対し、19億2,100万円を供与することにしました。
 海賊などの海上犯罪の要因には、沿岸地域の深刻な貧困を背景としている場合が少なくありません。すなわち貧困層の中には、生計を立てるために海賊行為に関与せざるを得ない人々もいるからです。そのため日本は、貧困を改善し、海賊行為の発生を抑えるというロンボク海峡周辺での経験を踏まえて支援を行っています。インドネシアで最も貧しい地域の一つであるロンボク海峡周辺の島々では、ため池やダムなどのかんがいシステムを構築し、またこれらを維持管理するための技術者の育成を行うなど、同地域の農村開発を支援しました。その結果、農業の生産性が向上し、農業所得は12年間で約5倍に増加しました。こうした貧困削減への取組により、住民の所得が向上し安定した生活を得ることで、海賊行為の発生頻度を減少させ、船舶の安全航行に若干でも貢献することが期待されています。

図表I―16 アジアにおける海の安全支援の実績(主に東南アジア地域)

図表I―16 アジアにおける海の安全支援の実績(主に東南アジア地域)



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