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●エネルギー分野における日本の支援
石炭や石油等の化石燃料を使ったエネルギー消費はGHG排出の大きな原因となっています。また、開発途上国では資金や技術の不足により、しばしば石炭や石油の燃焼に伴い硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質を発生させ、人の健康に悪影響を及ぼしています。
日本はODAを通じて、開発途上国における生活の質の向上や民間セクターの活性化を促すエネルギー供給への支援を行うとともに、GHG排出量や大気汚染物質の排出量が少なく、地域の実情にあった小規模水力や風力等の再生可能エネルギーの利用促進、既存の発電所や送配電網の改修等によるエネルギー効率の向上及び省エネルギーに関する政策・制度策定への支援を積極的に行っています。フィリピンでは2004年以来、太陽光発電等クリーン・エネルギーを利用した地方電化のための技術協力プロジェクトを実施しており、タイでは2002年より4年間、工場等のエネルギー管理者を対象にした能力向上支援を行いました。また、後述する中国、トルコ、エジプトなどでもエネルギー支援を行うなど、様々な支援を行っています。エネルギー分野における日本の支援額は2000年から2004年の5年間で約71億ドル(無償資金協力及び円借款)に達し、先進国の中で最大の援助国となっています。
図表I―8 エネルギー分野への各国の援助実績(2000年~2004年)

図表I―9 エネルギー分野における日本の援助の内訳(2000年~2004年)

●中国における支援~再生可能エネルギーの導入~
エネルギー分野における具体的な取組の一つとして、中国における水力発電に関する支援を紹介します。中国では、経済成長とともに電力の需要が高まり、1990年代の10年間で発電量を2倍以上に増加させました。しかし、一人あたりの電力消費量は、全国平均でまだ日本の5分の1程度の水準であり、今後も、高い経済成長に伴い電力需要がさらに拡大すると予測されています。しかも、中国では主として最もGHG排出量の多い発電方法である石炭火力発電に頼っているため、発電に伴う大気汚染物質の排出急増により、呼吸器系の病気にかかる住民が増えています。さらに大気汚染物質は大気中の水や酸素と反応し、酸性雨の原因となります。日本でも酸性の降雨が観測されており、中国の発生源からの影響が指摘されています。
このような状況を踏まえて、中国政府は電力供給を増加させつつ大気汚染物質の排出を抑えるために、日本に対して水力発電所の建設を支援するよう要請しました。これを受けて、日本は円借款により、山東省、湖北省、甘粛省、山西省において小水力発電所や揚水発電所の建設を支援することを決定しました。このうち山西省では、300MWの揚水発電施設を4基整備する計画で、石炭燃料の利用量を年間約26万トン削減することが期待されています。これによって、大気汚染物質の二酸化硫黄(SO2)排出量は年間約6,100トン削減、NOx排出量は年間約3,000トン削減されるとともに、GHG排出量も削減され、地球温暖化対策にも貢献することが期待されています。また、1996年から2000年までの5年間で、日本が円借款により支援した中国の大気汚染対策事業では、2003年時点で約19万トンのSO2排出の削減に貢献したと見積もられています。これにより日本へのSO2等の大気汚染物質の飛来や酸性雨の抑制にも貢献しています。
図表I―10 中国の電源構成(2002年)

図表I―11 中国における一次エネルギー需要の推移

●トルコにおける支援~省エネルギーの促進~
省エネルギーに関する政策・制度策定への支援の例として、トルコにおける取組を紹介します。エネルギー資源の半分以上を輸入に頼るトルコは、企業の国際競争力を強化するとともに、地球温暖化対策を目的として省エネ推進の努力を続けてきました。しかしながら、省エネ推進の指導を担うトルコ国立省エネルギーセンター(NECC:National Energy Conservation Center)の実施体制や技術力が十分ではないため、省エネルギーの効果がなかなか上がりませんでした。
このため、トルコ政府は、世界でも最高水準の省エネルギー技術を有する日本に対して、省エネルギー技術や省エネルギー推進のための政策・制度づくりに関する技術協力を要請しました。これを受けて日本は、2000年から2005年の間、トルコへの専門家派遣や研修の実施を通じて、NECCの政策提言能力や、工場の省エネルギー努力を診断する能力の向上を支援しました。こうした日本の支援もあり、トルコの産業部門の年間のエネルギー効率は最大5%改善したと試算されています。このように世界第22位のCO2排出国であるトルコにおいて、日本の協力はエネルギー効率向上と地球温暖化対策に貢献しています。