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column II-12 ブラジル ~サンパウロ視覚障害者支援団体点訳機導入・施設改修計画~


 ブラジルでは弱視者を含む視覚障害者が多いと推定されていますが、同国では、障害者に対する公的な支援制度が確立されていません。現在、キリスト教系NGOや、障害者を持つ家族が中心のNGOなどが障害者支援の中心を担っていますが、その活動も十分とは言えない状況です。そして、視覚障害者は貧困層に属している割合が高く、彼らが利用できる点字印刷された図書も少ないなどの理由により、障害者が学ぶ機会は限られています。
 日本は、こうした視覚障害者の抱える問題に対し、ブラジルの非営利団体である「ドリナ・ノヴィウ視覚障害者基金」からの申請に応え、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」を通じた支援を同団体に対し行いました。
 この団体は、1946年の設立以来、特に視覚障害を持った子供の教育に力を注いでいます。例えば、視覚障害者用の教科書、一般書籍、新聞等を印刷し、無料で配布しており、年間発行部数10万冊の、ラテンアメリカ最大の点訳図書発行団体となっています。また、視覚障害者の社会的な自立を支援する公共施設がほとんど存在しないブラジルにおいて、診察、各種リハビリ、点字教育などを積極的に行っています。
 しかしながら、この団体は2つの問題を抱えていました。1つ目の問題はニーズに対応する機材が不足していることです。具体的には、一般書籍を大量生産するための点訳機材はあるものの、高等教育書などの少量生産向けの機材がありません。それに加えて、この機材は弱視者が必要とする拡大文字が印字された書籍の発行に対応していないため、弱視者用の書籍が発行できず、彼らに本を配ることができませんでした。2つ目の問題は、団体の本部には、視覚障害者や弱視者が多く訪れるにもかかわらず、施設に手すりや警告ブロックが無いということです。そのため、彼らは介助者なしに、一人で自由に施設を利用することが困難な状況となっていました。
 そこで日本は、2005年に少量生産対応で拡大文字印刷が可能な点訳機材の購入や、同団体の施設に手すり、誘導・警告ブロック等を設置するために必要な資金、約750万円を供与しました。その結果、整備された点訳機材で印刷された点字教科書が、小学校から大学まで約2,000人の視覚障害者に配布され、彼らが勉強する機会が得られるようになりました。また、施設の改修により、1年間で延べ2万人の障害者が、安全・快適に施設を利用することができるようになりました。
 この支援の供与式典では、「ドリナ・ノヴィウ視覚障害者基金」の会長、在サンパウロ日本総領事らが参加し、日本とブラジルの国歌の演奏が行われるなど、友好的な雰囲気で式が進められ、参加者から、日本の支援に対する深い感謝の意が表されました。整備された機材で印刷された礼状には、「人生の階段は本で出来ている。本は人間の知識欲を導く最善の手段である。」と書かれています。こうした日本の支援は、人間の安全保障の視点から見て、開発途上国の視覚障害者が尊厳ある生活を送る上で、重要な役割を果たしています。

整備された点字プリンター
整備された点字プリンター

整備機材により点字・拡大文字で同時印刷された感謝状
整備機材により点字・拡大文字で同時印刷された感謝状


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