column II-6 タイ・ラオスに架かる「希望の橋」 ~円借款事業におけるエイズ対策~
開発途上国における橋梁建設や港湾整備等のインフラ整備事業では、多数の出稼ぎ労働者が長期間雇用されるため、人の移動が活発になります。その結果、地域の状況によってHIV/エイズ等の性感染症が拡大する可能性が従来から指摘されてきました。日本は、地球規模問題である感染症に対しODAを通じて積極的に取り組んでおり、円借款事業の実施にあたってHIV/エイズ対策を推進しています。
このような事業の例として、「第二メコン国際橋架橋計画」があります。第二メコン橋は、その建設に総額約80億円の円借款が供与されており、2004年に建設開始、2006年12月に完成予定の、タイとラオスを結ぶ全長1,600メートルの国際橋です。この橋はミャンマー、タイ、ラオス、ベトナムを結ぶインドシナ東西回廊の一端を担い、メコン河流域圏における経済発展の推進力となることが期待されています。この事業で雇用された労働者は約1,300人にのぼり、これらの人々は、毎日タイとラオスを往復して橋の建設に従事しています。
一方タイでは、現在HIV感染者が100万人以上いると推定されており、新規感染者も毎年2万人を数え、大きな社会問題となっています。またラオスでは、タイに出稼ぎに出た労働者が性産業従事者と接触するという、人の移動に伴う感染が確認されています。このため、本事業には、労働者に対するHIV/エイズ対策が必要だと考えられていました。しかし、こうした対策は両国の事業関係者にとって初めての取組であったため、事業関係者からは、当対策に時間が割かれることによる工事の遅延や、それに伴う企業イメージの低下等に対する懸念が寄せられました。これに対し円借款の実施機関であるJBICの職員が、現地NGOや保健局と共に事業関係者に対して理解を求める活動を継続的に行った結果、現地政府、建設工事に関わる企業、HIV/エイズ対策を専門とするNGOが連携し、当対策に取り組むことになりました。
JBICは、現地NGOや地域の保健局等と共に国際家族計画連盟のエイズ信託基金(注)を使い“Bridge of Hope(希望の橋)”と呼ばれるプログラムを実施しました。具体的には工事現場で早朝や休み時間を利用して、労働者にHIV/エイズ予防・啓発や、カウンセリング・抗体検査の呼びかけを行いました。また、当プログラムの標語である「工事現場にはヘルメット、夜になったらコンドーム」をポスターにして、工事現場周辺に掲示しました。こうした活動の結果、地域住民のHIV/エイズに対する認識度が61.7%だったのに対し、この事業における労働者の認識度は92.2%になりました。また、エイズ対策に関する国際シンポジウムにおいて、実際に建設工事に関わった企業の出席者が、工事に従事する労働者の安全や健康を守るという企業の社会的責任の重要性について述べるなど、企業による意識も高まっています。
この事業の他にもカンボジア、ベトナム、インドネシア、インド等で円借款事業に関連したHIV/エイズ対策が実施されています。日本はHIV/エイズ対策を円借款事業の入札書類に盛り込むなど、当対策に引き続き積極的に取り組んでいきます。

労働現場におけるHIV/エイズ予防教育の様子(写真提供:JBIC)

労働者の中から選ばれたエイズ教育担当のトレーニング風景(写真提供:JBIC)
注:国際NGOである国際家族計画連盟(IPPF:International Planned Parenthood Federation)に対して日本が拠出している信託基金。“Bridge of Hope”に対してはエイズ信託基金から2年間で約29万ドルを承認している。