前頁前頁  次頁次頁


column II-5 ポーランド日本情報工科大学での第三国研修 (注1) ~ポーランド日本情報工科大学日本文化講座長 東保光彦 先生~


 1989年から1990年代はじめにかけて、ソ連・東欧諸国の社会主義体制が次々と崩壊しました。それ以来日本は、旧社会主義の国々に対し、その市場経済化の過程で、様々な援助を行っています。その中の一つに、情報技術分野に対する支援が挙げられます。これは社会主義体制下では情報技術に対する規制が厳しく、情報技術分野の発展が思うように進まなかったためです。
 ポーランドでは、市場経済化に伴い実務的な情報技術者の育成が求められていました。そこで、日本はポーランド政府の要請を受け、1994年にポーランド日本情報工科大学を設立しました。また、1996年からの5年間、JICAの技術協力の一環として日本の大学などから累計で54名の専門家が派遣され、約5億円の情報機器が供与されました。これにより、当大学は急速に発展し、教員や学生の数が大幅に増加しました(開校時の学生90名から現在約1,800名)。また、1998年には修士課程、2002年には博士課程が設置されるなど教育内容も充実し、ポーランドの情報系大学の中でもトップクラスにランクされるようになり、技術協力による一定の成果が現れています。そして、当国の失業率が15%を上回るレベルで推移する中で、当大学の卒業生の就職率は100%となっており、国内で高く評価されています。
 こうした成果を周辺諸国にも広めるため、1999年度から2003年度まで、第三国研修として「東欧情報工学セミナー」が、ポーランド日本情報工科大学において開催されました。また、2004年度からは「中東欧情報工学セミナー」として3年間の計画で実施されています。このセミナーはマルチメディア、データベース、知識工学、ロボット制御などのテーマで実施され、これまでに13か国約140名が参加しました。参加者の大半は大学教員で、研修後のアンケート調査では、毎回参加者から高い評価が得られています。さらにポーランド日本情報工科大学は、UNDP(国連開発計画)のプロジェクトである「ウクライナIT支援」(注2)も実施しています。これは、ウクライナの工科大学に遠隔教育センターを開設し、そのセンターを拠点としたインターネットによる情報工学の遠隔教育を行うことを目的としています。
 こうした様々な研修の実施も含め、ポーランド日本情報工科大学は、これまでの国内外の専門家の人材育成や日本文化紹介等、日本・ポーランド両国の相互理解及び友好関係の促進に大きく寄与してきました。この功績が認められ、2004年10月の設立10周年記念式典の際に、日本の外務大臣表彰が授与されました。現在、ポーランドは被援助国を「卒業」し、2006年から本格的にODAによる他国への支援をはじめています。このポーランドによる第三国に対するODAにおいて、ポーランド日本情報工科大学が、今まで日本から援助を受けていた経験を活かして、今後の情報工学分野における活躍の場を広げることが期待されています。

ワルシャワ市内にあるポーランド日本情報工科大学。建物には「ポーランド日本情報工科大学」と日本語で書かれている。
ワルシャワ市内にあるポーランド日本情報工科大学。建物には「ポーランド日本情報工科大学」と日本語で書かれている。

第三国研修「東欧情報工学セミナー」の様子
第三国研修「東欧情報工学セミナー」の様子

注1:途上国が日本の資金や技術支援を受け、文化や社会環境が類似している近隣諸国から研修員を受け入れ、技術の研修を実施するもの。
注2:このプロジェクトでは、日本がUDDPのICT基金に対して拠出している中から35万ドルが支援されている。


前頁前頁  次頁次頁