column II-1 海外難民の視力改善支援活動 ~株式会社 富士メガネ 代表取締役会長 金井昭雄さん~
2006年は、日本が「難民条約」に加入して以来25周年の節目の年に当たります。本年の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のナンセン難民賞は、株式会社富士メガネの金井昭雄さんが授賞されました。金井さんの長年の活動は、眼鏡の寄贈を通じて人間の尊厳を回復するものです。ひいては、個人の能力開発にもつながり、日本の主唱する「人間の安全保障」の視点から、非常に意義深い活動です。

眼鏡の検査を行う様子(アルメニア、2003年)(写真提供:(株)富士メガネ)
金井さんが人道的奉仕活動に関心を持ったのは、1966年から1973年の米国留学中に、アメリカ先住民保護地区などの住民を対象とした、視力補正のための簡単な検査と眼鏡の寄贈活動に参加したのがきっかけです。この関心のもと、富士メガネ創業45周年という節目の年である1983年に、記念事業として社業の専門性を活かした社会的な活動として、海外難民の視力改善支援活動を始めました。
同じころ、タイ国内の難民キャンプでは、避難する際に眼鏡を失うなどした難民が多数おり、適切な視力補正サービスが求められていました。しかし、眼鏡は単に援助物資として送っても、専門知識や技術のある人がいなければ十分活用できません。そこで金井さんは、直接現地を訪問して一人一人の難民の視力を検査し、事前に日本で製作した新しい眼鏡数千組の中からそれぞれの視力に合った眼鏡を選ぶ活動を1983年から開始しました。これらの眼鏡で間に合わない場合は、帰国後、個別に製作して追加で寄贈しています。
支援活動を始めた当初は、事前の情報不足や、不慣れな環境で英語を用いての作業など苦労の連続でしたが、この活動成果が高く評価され、1984年からはUNHCRの要請に基づき実施するようになりました。それ以来、UNHCRは受入れ国でのマネージメントや、事前に輸送する眼鏡等の寄贈品の無税通関、現地協力NGOとの連絡、通訳の採用や受益者の事前抽出とリストの作成を行うなど、金井さんの活動にとってかけがえの無いパートナーとなっています。これまでにタイをはじめ、ネパール、アルメニア、アゼルバイジャンで合計24回難民支援活動を行い、10万8千組余の新しい眼鏡を寄贈しました。現地を訪問した社員は延べ116名、寄贈用眼鏡のフレーム等は広く眼鏡業界からの協力も得ています。
こうした活動を通じて寄贈された眼鏡は、難民や国内避難民にとって大変貴重なものとなっています。例えば、アゼルバイジャンの国内避難民で小学校の数学教師をしている40代の女性は、教科書の字が読みづらくなり授業の準備もままならず退職も考えていましたが、眼鏡をかけてからは教科書の字が見えるようになり、これからも子供たちに勉強を教えられると目を輝かせていました。

眼鏡をかけて実際に本を読む難民の女性(タイ、1984年)(写真提供:(株)富士メガネ)
金井さんや活動に参加したメンバーは、眼鏡を受け取った難民が一様に「見える喜び」を素直に表現し、感謝する姿にいつも強い感動と喜びを覚えると語っています。そして、この活動に参加した全ての人たちから「人生を豊かにする活動」という感想が寄せられています。