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7.大洋州
日本の大洋州に対する2004年の二国間ODAは、約4,215万ドルで、二国間ODA全体に占める割合は0.7%です。
日本にとって大洋州諸国は太平洋を共有する隣人であるとともに、日本と歴史的に深いつながりがあり、良好な友好関係を保っています。また、これらの国々は広大な排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)を擁し、日本の遠洋漁業の重要な漁場を提供するとともに海上輸送の要衝でもあり、この地域の平和と繁栄は日本にとって極めて重要です。
また大洋州は、比較的新しい独立国が多く、社会的経済的に自立した国家の構築が急務となっています。加えて小規模経済、第一次産業依存型経済、国家の地理的拡散性、国際市場へのアクセス困難、自然災害への脆弱性、国土喪失の危機など島嶼国特有の共通問題を有しています。日本は、このような事情を踏まえ、大洋州諸国のよきパートナーとして各国の個々の事情を考慮した援助を実施しています。
大洋州はメラネシア、ポリネシア、ミクロネシアの3地域(注)に大きく分けられ、それぞれの地域には民族、伝統的社会のあり方、地質学的特質などに違いが見られます。
メラネシアには、国民所得など経済状況が悪く開発需要の大きい国が存在しています。その中でもソロモンは、長期間内政が混乱していましたが、近年治安が著しく向上したことから、2005年5月より、2000年6月以降中止していた青年海外協力隊派遣を再開しました。また、ホニアラ国際空港の修復を実施したほか国内産業の育成のためにかつお・まぐろ類漁業基盤の修復を行い、同国の国家復興を支援しています。一方で、フィジーのように、太平洋における有数の観光地として知られ、また南太平洋大学(USP:University of the South Pacific)や太平洋諸島フォーラム(PIF:Pacific Islands Forum)など地域機関の事務局や本部を国内に持ち、人口・経済規模が大きく比較的開発が進んでいる国も存在しています。日本は、観光振興のための専門家派遣などによってフィジーの経済的自立に向けた開発を支援するとともに、フィジーのみならず太平洋地域への広域協力としてUSPへの遠隔教育・情報通信技術強化プロジェクトを実施しています。パプアニューギニアでは、小規模稲作振興の技術協力プロジェクトを実施し、所得向上・地域間格差是正を支援しています。
ミクロネシア地域は、第二次大戦前は南洋群島として日本が国際連盟の委任統治を行い、第二次大戦後は国際連合のもと、米国の信託統治を経て独立した国が多く、これまで日系人の大統領を複数輩出するなど日系人が政財界で活躍する一方で、現在も財政的に米国からの支援に依存する傾向が強く残っています。しかし、米国からの支援は期限が決められており、ミクロネシア地域各国の経済的自立達成のために日本に対する期待と、日本が果たすべき役割は増大しています。また、ミクロネシア地域はサンゴ礁島や環礁島が多く地下資源に恵まれておらず、国土が特に広範囲に拡散している国が多いため、経済開発は極めて困難であり、経済的自立達成のためには今後も支援が必要といえます。日本は、2004年度には、無償資金協力により、2003年度からの継続としてミクロネシアへポンペイ州周回道路整備計画や、パラオでの島間連絡道路改修計画などのインフラ整備、またミクロネシア諸国の基幹産業の一つである漁業分野においてキリバスに対しクリスマス島沿岸漁業振興計画により零細漁業振興を目的として冷蔵・製氷などの漁業インフラを整備するなど、国家の基盤整備や産業の振興に関わる支援を行ってきています。
ポリネシアには、トンガやサモアのように火山島として比較的肥沃な土壌を形成し農作物に適している国土を持っている国々と、サンゴ礁島で形成されているツバルや、ニュージーランドの自治領であるクック諸島、ニウエの小島嶼国・地域があります。2004年度にはサモアに対し無償資金協力により建設したサモア国立大学の施設機材の活用とコンピュータの整備に関する指導を実施するための個別専門家を派遣しているほか、無償資金協力による職業訓練学校の拡充など人的資源開発を支援しています。
日本は、大洋州諸国の首脳で構成される地域協力の枠組であるPIFとの協力を進めてきました。1997年及び2000年の2回にわたり、PIF諸国との首脳会議である太平洋・島サミットを開催し、2003年5月には、気候や海洋性などの点で大洋州諸国と共通の特徴をもつ沖縄において、第3回太平洋・島サミットを開催しました。この首脳会議では、これまでの大洋州諸国との協力に加え、2002年9月のWSSDにおける議論やその具体的取組に関する小泉構想を踏まえた「沖縄イニシアティブ」を採択しました。これは、日本と大洋州諸国が地域の開発についてともに考え、ともに取り組んでいくための指針と行動計画であり、安全保障、環境、教育、保健、貿易という5つの重点分野について、日本と大洋州諸国それぞれが責任をもって取り組んでいます。具体的な取組の例として、教育分野では小学校校舎など初等教育施設の新・増・改築や機材供与を3年間で100校実施することを発表し、既に100校以上に対し支援を実施しているほか、保健や環境分野などにおいても研修や専門家の派遣などを通じて「沖縄イニシアティブ」に沿って着実に支援を実施しています。なお、2005年3月、小泉総理大臣は訪日中のトゥイラエパPIF議長(サモア首相)に対し、次回太平洋・島サミットを2006年中頃に開催したいとの方針を示しました。
さらに日本は、大洋州の地理的拡散性を考慮した効率的・効果的な支援として、国家の枠を超えた広域的協力による、環境保全や教育サービス提供のための支援を行っています。環境保全の支援では、地域機関である太平洋地域環境計画(SPREP:South Pacific Regional Environmental Programme)への支援として無償資金協力によりSPREP教育センターを建設したほか、SPREPへの専門家派遣や廃棄物対策研修を行い、島嶼国を対象とした廃棄物対策マスタープランの作成を実施することによって地域の環境問題解決に貢献しています。教育サービスの提供では、USPへの遠隔教育ネットワーク施設支援を通じて、島嶼国の人々に広く高等教育を受ける機会を提供しています。

パプアニューギニアのハイランド橋梁改修計画の様子。ハイランド国道および橋梁は、同国の大動脈である。
図表II-32 大洋州における日本の援助実績

column II-19 観光産業から多民族の協調へ