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column II-18 カリブ海に浮かぶ「リトル・トーキョー」



 セントビンセント及びグレナディーン諸島(以下、「セントビンセント」)は、カリブ海東方に浮かぶ島国で、観光と農業、水産業を主な産業としています。1979年に独立した同国は、面積にして種子島よりもやや小さく、人口も12万人程度の小国です。また、ハリケーンなどの自然災害によって主要産業がしばしば被害を受け、経済基盤は決して盤石とは言えません。こうした状況を踏まえ、日本は同じく漁業の盛んな島国として、主に水産業に対する協力を行ってきました。
 1987年から翌年にかけて、日本は無償資金協力を通じて、首都キングスタウンに魚市場を建設しました。この魚市場はその後、アジ類やカツオを中心にセントビンセントの漁獲物の約80%が水揚げされる、水産流通・輸出の一大拠点に発展しています。さらにこの魚市場は、地元住民の憩いの場としても大勢の人々に親しまれており、彼らから「リトル・トーキョー」という愛称で呼ばれています。
 ところが1999年、セントビンセントの水産業を揺るがす事件が起こりました。東カリブ一帯で大量の魚が死ぬ原因不明の魚毒被害が発生し、零細漁民を中心とする市場関係者が大きな損害を被ったのです。人間への健康被害は報告されませんでしたが、これを契機として国内の水産物に対する衛生意識が高まりました。
 さらに主要な輸出先である欧州連合(EU)では、この事態を重くとらえ、安全基準をクリアしていないことを理由に、セントビンセントからの水産物の輸入を一部ストップしてしまいました。
 このような事態を背景とし、同国では安全かつ高品質な食品に対する需要が高まっており、政府も生産・加工・流通段階の衛生状態の改善を図り、安全で鮮度が高く、信頼のおける商品価値の高い水産物を市場に供給しようとしています。
 日本は、こうしたセントビンセント政府の取組を支援するため、既存の魚市場を改修するほか、加工と衛生検査の施設や機材を新たに整備するなどの協力を行いました(2005年3月に完成)。こうした協力を通じて、EUへの水産物輸出が将来再開し、同国の水産業がさらに発展していくことが期待されています。

地元の人々で賑わう「リトル・トーキョー」(写真提供:(社)海外水産コンサルタンツ協会)
地元の人々で賑わう「リトル・トーキョー」
(写真提供:(社)海外水産コンサルタンツ協会)


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