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3.効果的実施のために必要な事項
(1)評価の充実
ODAをより効果的・効率的に実施するためには、その実施状況や効果を的確に把握し、必要に応じて改善することが重要です。このような観点から、外務省を含むODA関係各府省、JICA、JBICの実施機関ではモニタリングや評価を実施しています。従来は個別プロジェクトを中心とした評価を実施していましたが、近年セクターや国別の援助戦略が重視されていることを踏まえ、個別プロジェクトに加え、セクターや国別の援助全体を対象とした評価をも実施しています。
2003年度は国別評価として、インド、インドネシア、パキスタン、ヨルダンにおける日本の援助を検証しました。特に、日本の援助政策が被援助国のニーズと整合しているか、援助政策の効果はあったのか、適切な実施プロセスによって援助が行われていたか、といった点を中心に評価を実施しました。その結果、インドの国別評価は、日本が援助の重点として捉えている分野は概ね被援助国のニーズが高い分野であり、実績もあるものの、一部被援助国の要請や実績が少ない分野もあることがわかり、重点分野の見直しを検討することが提言されました。政府ではこの提言を受け、重点分野を再検討しながら国別援助計画を策定しています。なお、ヨルダン国別評価はODA評価有識者会議に依頼した最初のケースとなりました。
重点課題別では2000年の九州・沖縄サミットで発表されたIDIを対象に評価を実施しました。この評価ではIDIと国際的な感染症対策支援との整合性、IDI策定・実施プロセスの適切性・効率性、IDIの有効性について検証を行いました。その結果、IDIは日本政府が感染症対策に対する具体的な資金拠出を表明することで世界の政治的関与を引き出したとも言え、その意義は大きいとの結論を得るとともに、世界的な感染症対策を推進できる人材の育成の強化などが提言されました。

沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)評価セミナーの様子
セクター別では、セネガルの教育分野、パプアニューギニアのインフラ整備分野、モロッコの水資源開発分野などにおける日本の援助を対象に評価を行いました。これらの評価では、当該セクターにおける日本の援助が被援助国のニーズを踏まえたものであったか、どのような効果があったのか、といった点が検証されました。その結果、被援助国のニーズはその時々によって変化があり、その動きを正確に把握しながら的確な援助を実施する必要があること、プロジェクトの効果を把握するための体制を整備することなどが提言されました。
個別プロジェクトについて、円借款ではすべての完成案件について、計画の妥当性、実施の効率性、効果、インパクトなどの観点から事後評価を実施しています。例えば、インドネシアの小規模灌漑管理事業(第2期)は、小規模な灌漑開発を行うことにより農産物増産を図り、農民の所得水準の向上及び貧困軽減に寄与することを目的とする事業ですが、本プロジェクトの効果やインパクトなどについて、第三者による評価を実施しました。その結果、本事業により農業生産が向上し、受益農民の生活水準の向上というインパクトがあったことが確認されました。しかしながら、今後米価が市場相場制へと移行していく状況にかんがみ、受益農民及び水利組合を対象とした農業経営とマーケティングに係るガイダンス及び実践を充実することが重要であるとの提言がありました。
また、無償資金協力や技術協力についても個別プロジェクトの評価が行われています。例えば、フィリピンのセブ州地方部活性化計画に関する中間評価では、プロジェクト目標と被援助国の政策との整合性、成果の達成状況、自立発展性などについて検証を行いました。その結果、プロジェクト目標は概ね達成されていることが確認されましたが、その成果をより確実なものとするため、パイロット事業の経験・ノウハウを他の事業にも活用するよう努めることが提言されました。政府では、この提言を受け、普及性を念頭に置いて事業を実施するとともに、州の広報誌や広報用ビデオなどを通じて積極的に情報発信を行っています。
このように、政府では政策から個々のプロジェクトに至るまで幅広く評価を実施し、これらの結果をODAの実施者にフィードバックすることによってODAの改善に努めています。また、政府としては、ODAの取り組み状況について国民に対する説明責任を果たすため、これらの評価結果を政府や実施機関のホームページ等で公表しています。