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8.欧州
日本の欧州に対する2003年の二国間援助は、約2億1,547万ドルで、二国間ODA全体に占める割合は3.6%です。
中・東欧諸国は、1989年の共産主義体制崩壊後、市場経済化・民主化に向けた取組を開始しました。これらの動きに対し、EUが主導するG24(対東欧諸国支援関係国会合)が発足、日本も国際社会の動きに同調し、それ以来15年近くにわたり中・東欧、バルト諸国に対する支援を実施しています。
現在、中・東欧地域の中でも発展の度合いは地域によって大きく異なっており、バルト3国を含む10か国(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、ラトビア、リトアニア、エストニア、キプロス、マルタ)は、各国からの支援を得つつ積極的な国内改革を推し進めた結果、2004年5月にEU加盟を果たしました。日本からも継続的かつ多岐にわたる支援を行うことによって、体制移行に伴う経済的・社会的困難を経験した市民の生活を改善し、安定的な体制転換に貢献してきました。現在、既にこれらの新規EU加盟国が被援助国から援助国へと転換しつつあることからも、日本の支援の役割も変化し、今後はよりニーズの高い地域や分野に援助をシフトしていく必要があります。このため、欧州地域における援助重点国についても、西バルカン地域やウクライナ・モルドバ等のさらに開発の遅れた国々に移行しつつあります。他方、これまで15年近くにわたる支援によって蓄積された知見を有効活用し、ハンガリーやポーランドを拠点にウクライナや西バルカン地域等への第三国に技術移転を行う三角協力や、こうしたプロセスを通じた中・東欧諸国自身のドナー化支援を実施しています。
また、2007年のEU加盟を目指すルーマニアやブルガリアに対しては、日本は経済成長に資する貿易・投資を促進するための支援や、対策の遅れている環境保全支援に力を入れており、2003年には、ルーマニアの重要な観光産業地でもあり、世界遺産で環境保護地区に指定されているドナウ・デルタの河口にある「黒海沿岸の海浜保全」に関する開発調査を開始するなど、両国の取組に対し積極的な支援を行っています。
しかし、こうした地域とは対照的に、ウクライナやモルドバなどは依然HIV/AIDSや慢性的な食糧不足による貧困等、多くの課題を抱えているほか、ボスニア・ヘルツェゴビナやセルビア・モンテネグロなど長年の紛争によって大きな被害を受けた西バルカン地域では、ようやく復旧・復興段階から開発段階へと移行しつつある地域もあります。2004年4月、日本は、EU議長国であるアイルランドと共同で、西バルカン各国閣僚、ドナー各国、国際機関の参加する「西バルカン平和定着・経済発展閣僚会合」を東京で開催しました。その中で、日本は、民族融和を通じた平和の定着や持続可能な経済発展の重要性を強調し、西バルカン地域が共通して抱える組織犯罪や高失業率などの課題に対し、地域が一体となって取り組む必要性を訴え、日本も引き続き支援していくことを表明しました。
また、これまで西バルカン地域に対しては復旧・復興のため、破壊されたインフラの整備や、保健・医療分野に重点を置いた支援を行ってきましたが、現在では発展の段階に合わせ、中小企業を中心とした産業振興や貿易・投資促進を目指した環境整備のための専門家派遣や研修員受入等を通じた人材育成に特に力を入れています。また、平和の定着の観点からは、セルビア・モンテネグロに対しては治安対策強化として警察官を招へいした研修を実施しているほか、コソボでは小型武器の蔓延が治安の安定や市民生活の安全を著しく阻害していることから、UNDPが実施する「小型武器回収計画」に人間の安全保障基金を通じた拠出を行っています。さらに、ボスニア・ヘルツェゴビナやクロアチアでは、地雷除去活動を行うNGO支援など多岐にわたる支援を行っています。
また、急速な市場経済化の中で対策の遅れたバルカン地域共通の課題である環境問題については、国際河川であるサヴァ川の水質管理のために専門家を派遣しているほか、水問題にも積極的に取り組んでいます。2003年10月には、マケドニアへの初の円借款として「ズレトヴィツァ水利用改善計画」に対し約97億円の資金供与を行いました。これは、慢性的な水不足に悩む地域住民の生活環境を改善するために、衛生的な飲料水を安定供給することを目的としているほか、周辺地域の工業用水やマケドニアの重要産業である農業のための灌漑用水の供給を主な目的としています。
図表II-37 欧州における日本の援助実績
