本編 > 第II部 > 第2章 > 第3節 > 3.地球的規模の問題への取組 > (8)麻薬・国際組織犯罪
(8)麻薬・国際組織犯罪
麻薬等の薬物問題、国際組織犯罪は地球的規模の深刻な問題であり、国際社会が協調して対応を強化していかなければならない問題です。近年、「黄金の三角地帯」(注)をはじめとするアジア地域では、合成薬物問題の深刻化に加え、国際的薬物犯罪組織による密輸が巧妙化しており、麻薬等の薬物問題、国際組織犯罪が日本へ及ぼす影響は計り知れません。このような状況に加え、人間の生存・生活・尊厳に対する脅威から個々人を守り、人間の自由と可能性を確保するため人間一人ひとりに注目するという「人間の安全保障」の視点からも、日本は国際社会における麻薬等の薬物問題、国際組織犯罪を重視しており、これらへの対策は、先進国及び途上国双方が優先すべき課題として取り組み、関係国際機関を含めた国際協力の下に対策を進めていくことが重要です。
麻薬等の薬物問題に対する日本の取組としては、国連麻薬委員会等の国際会議に積極的に参加するとともに、国連薬物統制計画(UNDCP:United Nations International Drug Control Programme)基金への資金拠出を毎年行っており、2003年度は約304万ドルを拠出しました。この資金を利用し、不正薬物取引の取締強化、各国国境の法執行担当者に対する捜査方法の訓練、押収した薬物、特に覚せい剤を分析する手法の訓練、ミャンマーのケシ栽培に依存している農村の開発等のプロジェクトに対する支援を行いました。
二国間援助では、薬物関連犯罪の防止や取締能力向上への支援を行っているほか、薬物問題の背景に貧困問題があることを踏まえ、住民が薬物の原料となる植物(ケシ等)の栽培に頼らず生活できるようにするため、代替作物栽培への支援や、NGOを通じた支援などを実施しています。2003年度は、薬物鑑定、薬物取締、中毒患者対策等の分野で、5か国へ11人の専門家を派遣しました。具体的には、フィリピンへの専門家派遣が挙げられます。フィリピンでは、覚せい剤の密造、濫用等が深刻な問題となっています。2002年7月に大統領府の下にフィリピン薬物取締庁(PDEA:Philippine Drug Enforcement Agency)が設立され、薬物問題への取組を強化していますが、薬物取締に係る捜査・情報収集を効果的に推進するために不可欠な薬物鑑定・識別に係るノウハウの不足が、フィリピンの法執行機関による活動の大きな制約となっています。このため、専門家を派遣し、フィリピンの麻薬取締従事者に対し違法薬物の鑑定・識別及び取締に関するセミナーを開催し、また、同国の麻薬取締官に対し薬物鑑定資機材及び捜査・監視機器の活用に関する現場教育等を行っています。そのほか、インドシナ地域における薬物問題に取り組むため、タイを拠点として「薬物対策地域協力プロジェクト」を実施しています(同プロジェクトについては、2003年版ODA白書147頁を参照して下さい)。
国際組織犯罪は、グローバル化やハイテク機器の進歩、人の移動の拡大等が進む現代社会において、国境を越えて大規模かつ組織的に敢行され、その脅威が深刻化しています。主な例としては、麻薬や銃器の不正取引、盗難品の密輸、詐欺・横領等の企業犯罪や経済犯罪、通貨、支払カード等の偽造、汚職、脱税や資金洗浄等の金融犯罪、売春、不法移民、女性や児童の人身取引等が挙げられます。このような、国際組織犯罪に対処するためには、各国の司法、法執行制度を強化すると共に国際的な司法・法執行協力により法の抜け穴をなくすための国際的な協力の下に対策を進めていくことが必要です。日本の取組としては、これらへの対策強化のためのセミナー等を開催したり、国際機関の取組を積極的に支援しています。