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(6)防災と災害復興
 災害には、洪水、干ばつ、台風、地震など様々な形態がありますが、大規模な災害の場合には人命や財産が奪われるだけでなく、経済や社会システム全体に長期にわたって深刻な影響を及ぼす場合があります。また、災害は世界各国に様々な形で毎年のように発生している地球的規模の問題です。途上国においては、災害に脆弱な貧困層が被害を受け、被災により衛生状態が悪化するなど、貧困問題や保健など様々な問題と密接に関係していることから、持続可能な開発を阻害する要因の一つにもなっています。こうした状況に的確に対処し、災害に脆弱な途上国の経済、社会システムへの被害を軽減するため、日本は、自らの過去の災害経験から培われた、優れた伝統的技術や最新の技術、災害に対する国民の高い予防意識を通じて得られたさまざまな知見を活用して、質の高い協力を行っています。

図表II-26 災害分野の援助実績

図表II-26 災害分野の援助実績


 この分野における協力では、災害が発生した直後の緊急援助などの災害復興分野に加え、事前の防災分野としてハード対策に加え、人材育成等のソフト対策への協力にも力を入れています。2003年度の資金協力の実績としては、有償資金協力2件151億円(すべて土壌流出対策)、無償資金協力51件182億円を合わせ、53件約333億円の協力を実施しました。内訳については、図表II-26のとおりで、2003年度の災害形態別の援助実績の特徴として、有償資金協力の実施により土壌流出対策の比率が高くなっていますが、全体としては、様々な災害形態に応じた協力を幅広く行っていることが分かります。
 事前対策としての防災分野については、台風、洪水、地震、土砂崩れ、火山噴火などの様々な自然災害に対する脆弱性を緩和するための備えを目的としています。また、被災直後の災害復興分野では、緊急援助隊の派遣やNGOとの連携も進められています。防災、災害復興分野における2003年度の主な協力事例を以下に紹介します。

土砂崩れにより一部塞がれた未舗装道路:モロッコ
土砂崩れにより一部塞がれた未舗装道路:モロッコ

 近年、干ばつや雪害などの気象災害に見舞われたモンゴルにおいて、牧畜業を含む経済全体における損失は甚大です。1999年及び2000年には、2年連続で大規模な雪害が発生し、家畜500万頭以上が死亡するなど、特に地方に住む多くの遊牧民が影響を被っています。しかしながら、地方気象観測所における観測施設は老朽化しているために、的確な気象情報が提供されていない状況にありました。このため、無償資金協力により、地方気象観測所における機材の更新や通信ネットワークの改善を行った結果、地方における正確な気象観測データの収集及び各地方気象観測所におけるモンゴル全土の気象情報の的確な提供が可能となり、事前に適切な対策がとれるようになりました。
 カリブ海の東側に連なる大小アンティル諸島は、大型のハリケーンが襲来し、洪水などの災害の被害を受けやすい地域ですが、人材や機材、災害予防に対する技術力不足のため、当該国政府は総合的な災害管理を行う機関としての十分な能力が持てない状況にありました。このため、日本は、2002年から開始した技術協力プロジェクトにより、洪水、土砂崩れ、火山、地震の災害管理分野の協力を実施し、ハザードマップ(過去に災害被害を受けた地域を示した地図)作成などの協力を実施しました。2003年には、短期の専門家を派遣し、災害担当の行政機関職員や地域住民のボランティアグループを対象に、日本が防災のために開発した訓練手法である災害図上訓練を行いました。こうした協力を通じ、参加者が自ら行動を討議していくことで、災害対策機関や地域住民の防災能力、防災意識の向上に大きく貢献しました。
 以上の防災関連の協力のほか、災害復興に関しては、日本は海外における大規模な災害に迅速に対応するため、「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」の下、救助、医療関係者、災害復旧の専門家を含む人員を速やかに派遣する国際緊急援助体制を整備しています。2003年度の実績は、国際緊急援助隊派遣が7件(救助チーム、医療チーム、専門家チーム派遣、合計199名(自衛隊輸送部隊の要員含む))、物資供与が15件であり、総額約7億270万円となっています。また、被災国からは、日本の緊急援助活動に関して数々の謝意表明が伝えられています。
 また、災害復興時にNGOと連携した例では、2003年12月に発生したイランの地震災害において、経済界およびNGOとの連携により設立された緊急人道支援組織であるジャパン・プラットフォームと連携して協力活動を行った例をあげることができます。その際、救助犬を使った救護活動をはじめ、毛布、テント、ストーブ等の生活必需物資の配給を政府資金により、また、被災地におけるFMラジオ局の設置・運営のための活動を民間資金により行いました。
 防災、災害復興分野における最近の国際的な動きとしては、国連が2005年1月18日から22日に国連防災世界会議を神戸で開催する予定であることが挙げられます。2004年5月には、スイスのジュネーブで同会議の第1回準備会合が開催され、各国の参加のもと、会議の準備プロセスや運営方法、成果を中心に様々な議論がなされました。第2回準備会合は同年10月に開催される予定です。

イラン地震におけるジャパン・プラット・フォームが派遣した先遣隊の活動の様子
イラン地震におけるジャパン・プラット・フォームが派遣した先遣隊の活動の様子


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