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(7)債務問題への取組
 途上国の持続的成長を妨げる大きな問題の一つに、債務問題があります。多くの途上国は開発資金を確保するために対外借入を行ってきましたが、1970年代のオイル・ショック、1970年代後半からの一次産品価格の下落を背景に、国際収支が悪化し、自国の経済状況に照らし、維持できないほどの債務を抱えることになった国が多数生じています。

図表II-21 債務救済措置の変遷

図表II-21 債務救済措置の変遷

図表II-22 途上国の債務額の推移

図表II-22 途上国の債務額の推移


 日本は、こうした状況に対応するため、パリクラブ(注1)において、債務救済の方法として債務の繰延(リスケジューリング)に協力するとともに、1978年のUNCTAD・TDB(Trade Development Board:貿易開発理事会)決議(注2)に基づき、最貧国に対する債務救済無償方式による債務救済を実施してきました。なお、パリクラブにおける債務救済の方法は、従来は債務の繰延(注3)で対応することが一般的でしたが、1980年代後半以降、債務削減措置もとられるようになりました。また、これらの対象となる債務は二国間債務であり、国際金融機関の債務は救済の対象とされていませんでしたが、1996年のリヨン・サミットの際に「HIPCイニシアティブ」が合意され、国際金融機関や商業債権者も包含し、HIPC諸国の債務を持続可能なレベルまで低減することを目的とした債務削減措置がとられるようになりました。その後、HIPCイニシアティブは1999年のケルン・サミットにおいて拡充され、拡大HIPCイニシアティブ(ケルン債務イニシアティブ)となり、現在に至っています。日本は、こうした債務削減措置に関する国際的な議論に積極的に参加、貢献するとともに、国際社会と協調し、重債務国に対する債務救済措置を講じています(債務問題への取組については、2003年度版ODA白書116頁も参照して下さい)。
 2004年のシーアイランド・サミットで発出された「最貧国の債務持続性」声明では、主要先進国がHIPCイニシアティブの完全な実施と、最貧国の債務持続性確保に取り組んでいくことを再確認しました。そして、HIPCイニシアティブの適用期限を2006年12月31日まで延長し、イニシアティブの完了のため、必要な資金を提供するよう他のドナー及び国際金融機関と協働すること、及び最貧国が自らの債務持続性に取り組むことを支援する方策を検討することが示されました。
 最貧国の債務問題について、日本は、拡大HIPCイニシアティブの適用が決定されている国27か国に対して、G7貢献分(235億ドル)の約4分の1にあたる約54億ドルの貢献を行っています。これは、同イニシアティブにおける最大の貢献です。日本としては、今後も同イニシアティブを迅速かつ着実に実施に移していくことが重要と考えています。
 日本は従来、債務救済無償の供与により円借款債務の救済を行ってきましたが、債務問題のより早期の解決、債務国の負担の軽減、ODAの透明性及び効率性の観点から、2003年度より、旧来の債務救済無償の対象国に対しては、円借款債権の放棄という形で債務救済を実施することとしました。2003年度には、日本は拡大HIPCイニシアティブに基づき、7か国に対して合計約913億円(ボリビア約534億円、ベナン約38億円、モーリタニア約80億円、タンザニア約121億円、マリ約78億円、ウガンダ約62億円)の円借款債権の放棄をしました。また、TDB決議に基づく債務削減措置として約1,581億円(バングラデシュのみの実績)の同債権の放棄を行いました(2003年度の円借款債権放棄の総額は約2,494億円となる)。日本としては、債権放棄が債務国の貧困削減を含む社会経済開発に資するよう国際社会と協調してPRSPの下でモニタリングを行うこととしています。
 HIPC以外の低所得国や中所得国(以下「非HIPC諸国」)についても、重い債務を負っている国があり、これらの負担が中長期的な安定的発展の足かせとならないよう、債務問題へ適切に対応していく必要があります。
 非HIPC諸国が抱える債務問題に関して、G8間で検討した結果、2003年5月ドーヴィルでのG8財務大臣会合声明の添付文書として「パリクラブの債務リストラに関する新たなアプローチ」が発表され、その後、パリクラブにおいて具体的な実施方針について合意がなされました(エビアン・アプローチ*1)。
 エビアン・アプローチでは、全ての非HIPC諸国を対象に、従来以上に債務国の債務持続可能性に焦点を当て、各債務国の状況に見合った措置が個別に検討されます。債務の持続可能性の観点から見て、債務負担が大きく、支払能力に問題がある国に関しては、一定の条件を満たした場合、包括的な債務救済措置がとられることになりました。エビアン・アプローチはこれまで、2004年1月にケニア、同年3月にドミニカ共和国、同年6月にガボンに適用されています。
 日本としても、各国の債務持続性により着目した債務救済を行うというアプローチを支持し、国際的な枠組みにおける議論に積極的に参加するとともに、これらの国々に対する債務救済にも必要に応じて協力しています。
 債務の問題は、債務国自身が主体的に債務の管理を行いつつ、改革努力などを通じて自ら解決しなければならない問題です。しかし、一方で過大な債務が途上国の発展の足かせになってしまうことも避けなければなりません。日本としては、債務国自身の努力により中長期的な成長が達成され、債務返済能力が回復することが必要であるとの立場を基本としながらも、こうした成長が可能となるよう、今後も国際的な枠組みの中で債務問題に取り組んでゆきます。


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