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(5)貿易・投資の促進
海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)、そして貿易は、民間部門の活性化、ひいては途上国の経済発展に資するものであり、途上国の開発にあたっては、ODAのみならず途上国の国内資金、海外直接投資などの民間資金、貿易など、あらゆる資金源を動員することが重要であるという認識が国際社会に広がっています。しかし、投資を呼び込み貿易を活性化させるために途上国政府が実行しなければならない政策措置は膨大で、多くの貧しい国にとっては自力での対処が困難です。そのため、他国あるいは様々な国際的枠組みによる支援が必要となります。日本はODA、OOF等を活用して、こうした途上国の環境整備のためのインフラ整備支援、制度構築、人材育成面での支援を行っているとともに、新たな資本、技術、経営ノウハウの導入を促し、雇用機会の創出を実現するための有効な手段である二国間投資協定(BIT:Bilateral Investment Treaty)の締結を推進し、投資の保護と自由化を通じた投資の拡大・促進に力を入れています。(貿易、投資と開発の関係については2003年版白書101頁を参照して下さい。)
本節において既に説明したインフラ整備支援や政策立案、制度整備支援、人づくり支援に加え、日本は、「メコン地域開発」については、2003年12月の日・ASEAN特別首脳会議において、経済協力と貿易・投資促進を統合する形で協力を拡充することなどのイニシアティブを表明しました。その一環として2003年度、メコン地域各国の商工会議所機能の強化を目的として、カンボジア、中国(雲南省)、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナムの6か国・地域の商工会議所をメンバーとする大メコン河流域地域ビジネス・フォーラム(GMS-BF:Greater Mekong Subregion-Business Forum)に対して、同フォーラムの機能強化のためにJETRO専門家を派遣し、各国の商工会議所を巡回して、ビジネス・ダイレクトリーの作成、ホームページの拡充、展示会などの貿易振興事業の企画・実施等の支援を実施しました。メコン地域においては、各国ごとの市場は小さく、国単位での成長可能性は限られているため、貿易のクロスボーダー化及び市場の統合による経済成長の可能性が模索されています。GMS-BFの機能強化は、同地域の経済活性化に貢献することが期待されています。

タンジュンプリオク火力発電所:インドネシア (写真提供:国際協力銀行(JBIC))
また、日本は、2003年度、インドネシアの投資環境整備のために、タンジュンプリオク火力発電所拡張事業に対し、円借款の供与を決定しました。インドネシアのメガワティ前大統領は2003年を「投資促進の年」とし、外国投資の受入促進に積極的に取り組む姿勢を示しました。これを受け日本は、インドネシアの持続的経済成長達成のために経済インフラ整備案件を円借款の最重点分野としました。このプロジェクトは、インドネシアの主要電力網であるジャワ・バリ電力系統のうち、特に電力需要が集中するジャカルタ近郊の発電所拡張を行うことを目的とするものであり、これによりインドネシアの投資環境整備に貢献することが期待されています。
慢性的な貿易赤字を抱え、輸出振興が主要政策の一つとなっているエジプトに対しては、貿易実務に携わる人材育成の強化を目的とした、エジプト貿易研修センター計画におけるニーズ調査、研修プログラムの実施、事業計画の策定などに関し、長期専門家、短期専門家の派遣、研修員の受入等の支援を行いました。
また、途上国への民間投資を促進する上で、官民のパートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)を強化することが重要です。このような観点から、途上国自身の持続可能な開発に向けた対内投資促進の努力を側面から支援するため、ODAによる取組の他にも、公的資金を活用することにより民間企業の対外投資のリスクを軽減する投資金融や投資保証・保険などを通じて途上国への投資促進に貢献しています。そのような取組の例として、JBICの投資金融、保証(投資関連)、アンタイド・ローン(投資関連)及び日本貿易保険(NEXI:Nippon Export and Investment Insurance)の海外投資保険、海外事業資金貸付保険等が挙げられます。
更に、特に貿易という側面については多国間組織として世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)があります。WTOの加盟国は2004年7月現在147か国ですがそのうち、約4分の3は途上国です。経済力や人材の質が大きく異なるこれらの国々が、WTO協定という国際ルールに従い、自由貿易を推進し、貿易の利益を追求すべく努力しています。
2001年のWTOドーハ閣僚会議において立ち上げられたラウンドは、「ドーハ開発アジェンダ」と呼ばれ、多角的貿易体制参画による途上国の開発促進を重視しています。日本は、LDC(Least Development Country)産品の市場アクセス改善に努力するとともに、途上国の要望に応えて、協定履行、交渉参加能力向上を目的とした貿易関連技術支援/キャパシティ・ビルディング(TRTA/CB:Trade Related Technical Assistance/ Capacity Building)の実施にも力を入れてきました。
例えば、途上国産品の市場アクセス改善に関して、日本は1971年以降、一般特恵関税制度(GSP:Generalized System Preferences)を措置しており、途上国から輸入する一定の農水産品、鉱工業産品に対し、一般の関税率よりも低い税率(特恵税率)を適用しているほか、一定のLDC産品に対しては無税・無枠(duty-free and quota-free)で輸入する措置をとってきました。2001年の第3回国連LDC会議をはじめとする累次の国際会議において、先進国に対しLDC産品に対する無税・無枠措置のさらなる拡大を求める声が高まる中で、日本は2003年4月1日より、LDC以外の途上国に対して約120品目の特恵対象品目の拡大を行うとともに、LDCに対しては、LDCからの輸入が多いえび、魚のフィレを含む農水産品約200品目を無税・無枠措置の対象品目に追加しました。この結果、LDC産品の輸入については、既にほぼ100%が無税・無枠である鉱工業産品と合わせて、全体では金額ベースで93%について無税・無枠が達成されることとなりました。また、2002年度と2003年度を比較するとLDC特恵対象品目の輸入額が25%余り拡大しており、途上国の貿易機会の拡大に大きく寄与しています。
また、貿易関連技術支援/キャパシティ・ビルディングの観点からは、日本は2003年5月から6月にかけて、WTO事務局と共同で、アフリカ諸国を対象に、投資ルールの重要性及びその理解の深化を目的としたセミナーをケニア及びジュネーブのWTO事務局においてそれぞれ開催しました。またこれ以外にも、マーケティングや中小企業支援等貿易拡大の前提となる分野において、日本は年間1,000件以上の貿易関連キャパシティ・ビルディングを行っています。こうした実績はWTO/OECDの貿易関連技術支援/キャパシティ・ビルディング・データベースで閲覧可能です。日本はこれらのセミナーを通じて、途上国の多角的貿易体制参画を促進し、途上国の経済的自立と世界貿易の推進に貢献しています。
2003年9月に行われたカンクン閣僚会議は、ドーハ・ラウンドの中間点とされていましたが、先進国・途上国間の対立構造が解けないまま、期待されていた成果を上げることなく閉幕しました。これは残念な結果でしたが、日本は、WTOという多角的貿易体制の維持・強化を通じて途上国の開発を促進することが、世界経済の安定と反映につながるとの考えから、新ラウンドの成功に向け努力しています。日本としては途上国の自立的発展のため、また、世界貿易の一層の発展のため、二国間支援、国際機関との協力を通じ、ODA政策と貿易政策の一貫性を確保し、両者の相乗効果により途上国の多角的貿易体制参画、持続的経済成長に積極的に貢献していく考えです。