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(2)政策立案、制度整備
 日本は、途上国の政策・制度づくりなどのソフト面への支援需要に応えるため、政策アドバイザーなどの専門家派遣を行うとともに、諸制度を整備するため研修員の受入や開発調査を活用した支援を行っています。ソフト面への支援は、近年、日本独自の支援として注目を集めており、貿易・投資、経済・法律など様々な分野における日本の専門家が、政策立案を担当する途上国政府関係者との粘り強い対話を積み重ねることで相互に信頼関係を築きながら、途上国の長期的な開発戦略についてその国の実状を十分に踏まえた提言を行うという政策支援型のプロジェクトが進められています。
 例えば、ASEAN諸国では、1997年のアジア経済危機から完全に脱却し、域内経済自由化を進めるとともに、国際競争力を強化することが課題となっていますが、日本は各国の開発状況に応じた政策支援型のプロジェクトを展開しています。ラオスでは、2003年度までに金融、中小企業振興、農業・農村開発、経済統合等幅広い分野において、日本の有識者とラオスの政策当局者の協力により提言を策定するとともに、ラオス側の政策立案能力の向上などを目指して人材育成を実施しました。インドネシアでは、同国にとり重要な政策課題について、日本の有識者(大学教授)とインドネシア側閣僚との政策対話(全体会合6回)を通じ、同国の改革努力を支援する「経済政策支援プログラム」を行っています。これらの政策支援型のプロジェクトは、過去にもベトナムなどにおいて実施していますが、被援助国の開発に貢献するとともに、両国間の関係構築にも重要な役割を果たしています。

法曹養成学校での模擬裁判の様子(「法整備支援プロジェクト」:ベトナム) (写真提供:国際協力機構(JICA))
法曹養成学校での模擬裁判の様子(「法整備支援プロジェクト」:ベトナム) (写真提供:国際協力機構(JICA))

 また、途上国のグッド・ガバナンスに基づく自助努力を支援するためには、途上国の発展の基礎となる人づくり、法・制度構築に協力することが重要です。日本は、1996年のG7リヨン・サミットの際に「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD:Partnership for Democratic Development)」を発表し、パートナーシップ、オーナーシップ(自助努力)、途上国との協議・同意の3つを原則としつつ、法・司法整備や選挙制度整備などの制度づくり、司法官・行政官・警察官の育成、選挙支援、市民社会の強化、女性の地位向上支援などの取組を強化する方針を明らかにしています。また、これに基づき、途上国の民主化や市場経済化の進展状況に応じた多種多様な援助需要に適切に対応するため、関係省庁や国内関係機関との連携により国内支援体制を構築しつつ、研修員受入、専門家派遣、開発調査、施設整備、機材供与、NGOへの支援など様々な援助形態を通じた多角的な支援を展開しています。
 市場経済化・対外開放政策に取り組む中で各種法制度の整備が課題となっているカンボジア、ベトナム、ラオス、また、ウズベキスタン等のNIS諸国に対し、2003年度は、民法、商法、民事訴訟法及び破産法などの法案起草・改正、立法化への支援及び法曹人材の育成のための法整備支援を行っています。法案起草・改正においては、被援助国の慣習にも配慮した法律づくりを目指し、派遣された専門家等が粘り強く取り組んでおり、具体的な成果を上げつつあります。特に、ベトナムについては、民事訴訟法及び破産法等の起草に関して支援を行い、両法案は、2004年5月にベトナム国会において成立をみています。法曹人材の育成においては、法令の作成・運用に携わる人材の育成を支援するため、ベトナムの国家司法学院やカンボジアの司法官職養成校などを対象に法曹教育に関する日本のノウハウの伝達を行っています。
 また、警察機関の能力向上のための支援として、制度づくりや行政能力向上への支援等の人材育成に重点を置いており、これに併せて施設整備や機材供与を含めた有機的な支援を実施しています。インドネシアでは、1999年に国家警察が国軍から分離・独立し、市民警察としての定着を目指して組織の民主化が促進されています。こうした中、日本は「国家警察長官政策アドバイザー」として専門家を派遣しているほか、2002年8月から、技術協力プロジェクトとして「市民警察活動促進プロジェクト」を開始し、組織運営、通信指令及び現場鑑識等の分野で技術支援を行っています。また、2003年には、前年に爆弾テロ事件のため国際的な観光都市としてのイメージに大きな打撃を受けたバリの復興を支援すること等を目的として、同年10月、「バリ州警察本部長アドバイザー」を派遣し、同州警察幹部に対し警察行政に関する総合的な助言等の支援を行っています。同様に、フィリピンでも、1998年に沿岸警備隊が海軍から独立しました。日本はこの民主化の動きを支援するべく、海上保安行政の専門家を派遣し、政策的アドバイスを与えているほか、2002年7月から「海上保安人材育成プロジェクト」を開始し、指導者の育成や研修教育プログラムの策定等技術支援を実施しています。

フィリピン沿岸警備隊に航空救難の技術移転を行う専門家 (写真提供:海上保安庁)
フィリピン沿岸警備隊に航空救難の技術移転を行う専門家 (写真提供:海上保安庁)

 このほか、アジアの中長期的安定と開発の持続性にとってガバナンスが重要な課題であることから、2004年3月、日本の支援を受け、UNDP、国連大学等の共催で「アジアの民主的ガバナンス」に関するワークショップが開催されました。このワークショップには、日本のほか、ASEAN諸国、インド、中国、韓国、モンゴルの国会議員、NGO、政府関係者等や国際機関が参加し、様々なレベルでガバナンスの強化のための努力と課題について活発な意見交換が行われました。


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