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columnI-6 シンガポールの交番制度

 シンガポールは世界でも治安の良さで有名で、殺人事件の発生率は日本より低いとの統計もあります。その背景には、FINE CITYと言われる規制や罰則の存在、政府の治安維持に向けた努力がありますが、その中でも日本からの技術協力で導入し改良した交番制度が果たしてきた役割は小さくありません。
 高度経済成長を目指した1980年頃のシンガポールは、高層住宅の林立するニュータウンでの犯罪の増加に悩んでいました。住宅街における防犯システムやパトロールを強化するために警察組織の再検討を目指したシンガポール政府は、日本で視察した交番制度に強い関心を示しました。日本はシンガポールの要請を受けて、1981年より、同国に対し交番設立のための専門家派遣や実務研修といった技術協力を行いました。そして、1983年にトア・パヨに交番(NPP: Neighborhood Police Post)第1号が開設されました。続いて、シンガポール政府は、高層住宅団地の一階部分など住民のアクセスの良い場所にNPPを次々と設置しました。これに伴い、各地域で防犯活動が進み、結果として、国全体での犯罪の発生率が低下しました。
 警察行政をより効果的・効率的に行うために、シンガポール政府は、1996年からNPPを一部整理し、NPPを統括するNPC(Neighborhood Police Center)を開設しました。NPCは、各コミュニティーが一体となって地域住民の安全を確保するために、話し合いなどを通じて警察官と住民組織の連携・協力を強化する場となっています。NPCを含め、シンガポールには2004年1月現在に至るまで97か所に交番が開設されています(2004年1月現在)。各地域では、中国系、マレー系、インド系など様々な人種や言語の住民に対応できるよう警官の配置にも気が配られています。今日、シンガポールで交番制度に対して市民が厚い信頼を寄せているのも、このようにシンガポールの交番制度が、日本の制度を単に導入しただけではなく、自国の実情にあった、独自の制度を築き上げてきたからなのです。
 現在では、日本とシンガポールは共同でそれぞれの交番制度の経験を広くアジア各国に広げる努力をしています。例えば、シンガポールと日本は「21世紀のための日本シンガポール・パートナーシップ・プログラム」の下で、途上国に対する研修を共同で行っています。その中でも1995年以降シンガポール及び日本で実施している「交番システムコース」は最も成功した第三国研修の一つで、過去9年間で約200名のアジア諸国の警察官が日本とシンガポールの交番制度について学びました。このような協力を通じ、アジア各国の町角で、人々が交番のお巡りさんを頼もしそうに見つめながら会話する姿が増えることが期待されています。

交番センター
交番センター

市民に対応する警察官
市民に対応する警察官


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