columnI-4 東アジアの経済発展を牽引した「日本型ODA」~ODA総合戦略会議議長代理 渡辺利夫 先生
半世紀余の日本のODA史を振り返ると、次の3つの特徴が浮かび上がってきます。
第1に、日本のODAの主要供与地域が、NIES(新興工業経済群)やASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、ならびに中国といった東アジアであったこと。第2に、日本のODAが高速道路を含む道路整備、橋梁、鉄道、港湾、発電所、送配電設備、灌漑設備など、一国の経済発展の基盤となるインフラ建設に投入されてきたこと。第3に、インフラの建設資金として元本・利子の返済を要する借款が用いられてきたこと、この3つです。一言でいえば日本のODAは、借款の供与により東アジアの発展をインフラ建設によって支えることを主目的にして供与されてきたということができます。この「日本型ODA」は東アジアの発展にまことに大きなインパクトを与えてきました。
一国の発展にとってインフラの建設は、これを欠かすことはできません。インフラとは一国の経済活動をその基盤において支える巨大な構造物です。インフラはその建設過程に多くの民間企業を招き入れることによって直接的に、さらにインフラ完成後は民間企業の効率的な展開、したがってその生産コストの引き下げという重要な間接効果をもっています。
市場経済における主役は申すまでもなく民間企業です。「東アジアの奇跡」を可能にしたのも民間企業の活発な活動です。国内企業にとどまりません。日欧米企業はもとより東アジア自身の企業が東アジアに積極的な直接投資を展開してきました。実際、東アジアは世界の中でも有数の海外直接投資の受入地域です。中国の「経済大国化」もIT(情報通信)産業や自動車産業に大規模に進出した外国企業によって可能となったのです。内外の民間企業の効率的な事業活動を可能にしたものが、東アジアの整備された経済インフラです。その整備に日本のODAは多大の貢献をなしてきたのです。
「日本型ODA」の原則は「自助努力支援」です。借款は元本と利子の返済を要します。借款の返済コストを上回る経済的ベネフィットを求めて東アジアは懸命の努力を続けたのです。その意味では日本のODAは自助努力をその「コンディショナリティ」(貸付条件)としてきたということもできます。東アジアは、このコンディショナリティの存分に応えて経済発展を実現したというべきでありましょう。
しかし、東アジアはその発展の結果としてインフラ建設のための資金や技術を豊富に身につけるようになりました。それがゆえに、日本のODAは東アジアが自らの力で建設可能な分野からは次第に身を引き、彼らの自助努力のみでは容易に解決できない分野、例えば環境保全や人づくりの分野などに重点を移していく必要があります。事実、対中ODAの新規案件をみてみますと大半がこの2分野に集中していることがわかります。
さらに、今後の日本は東アジアのみならず、サブ・サハラ・アフリカなどの最貧住民の救済、中東など紛争地域の平和構築のためにもODAの相当部分を振り向けていかねばなりません。こうした国々に自助努力を求めるのは簡単ではありません。しかし、そうしたODAであっても少しでもこれが受入国の自助努力の発揚につながるような供与の在り方はないものかとつねに思いをめぐらす、そういう姿勢が日本の供与理念であってほしいと私は心から願っています。

渡辺利夫 先生