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(4)水と衛生
人口の急激な増加や都市への集中、産業の発展などにより、世界各国で起こっている水不足や水質汚染、洪水被害などの水を巡る深刻な問題を背景として、世界では水問題の解決についての関心が高まっています。現在も、世界の人口の半分が不衛生な水環境のもとに置かれ、不衛生な水による病気で1日に約6,000人の子どもが死亡している状況(注)にあります。さらに、地球温暖化による影響や化学物質の脅威などにより、先進国を含めた世界の水が危機的状況に陥る恐れもあります。
日本の水と衛生分野への経済協力の目的は多岐にわたり、開発途上国における多様なニーズに即した協力を行っています。2003年3月に開催された第3回世界水フォーラムにおいて、水分野における包括的な貢献策として「日本水協力イニシアティブ」を発表し、主要な取組として、
[1]2003年度予算において160億円の「水資源無償資金協力」を創設
図表III-9 水と衛生分野の目的別供与実績

[2]途上国都市部を中心とした資金ニーズに対する譲許的な条件(現行金利0.75%)での円借款供与
[3]2003年度から5年間で上下水道分野において約1,000人の人材育成
を実施するほか、日米、日仏協力など、国際的なパートナーシップの具体的進展を図ることとしています。
日本の水分野の協力は、ミレニアム開発目標やヨハネスブルグ・サミットの実施計画において目標が定められている飲料水と衛生分野を重点的に実施しており、その量は世界的に見ても高い水準にあります。経済開発協力機構・開発援助委員会(OECD-DAC)の統計によると、過去3年間(1999年~2001年)平均の全世界(援助国及び国際機関)の飲料水と衛生分野へのODA実績(約30億ドル)のうち、日本は1/3に相当する約10億ドルを担う世界最大の援助国となっています。
2002年度の実績では、無償、有償資金協力を合わせると、水と衛生分野において2,269億円の実績があり、目的別では、飲料水・衛生、洪水対策、灌漑、エネルギー(水力発電)、その他(水質汚染監視、砂漠化防止のための植林等)に分類されます。
2002年度における日本の水と衛生分野の実績を目的別にみると、飲料水・衛生が全体の約7割を占め、植林等が2割となっています。
資金形態別の特徴としては、無償資金協力のうち、約7割は井戸や上水道施設の整備に向けられており、残りは灌漑、洪水対策、植林のほか、地下水のヒ素汚染対策なども行われています。また、有償資金協力においては都市における飲料水・衛生状況改善のための上・下水道が約7割を占め、次いで砂漠化防止のための植林が約2割で、このほか、大都市における洪水対策も行われています。
地域別の実績を見ると、有償資金協力では殆どがアジア、無償資金協力ではアジアが5割以上、次いでアフリカが2割以上となっています。
資金面、及び技術面での協力の例としては、バングラデシュでは、地中にあるヒ素により井戸水が汚染され、全人口の約5割にあたる6,000万人がWHOの水質基準を超える飲料水により影響を受けている状況にあり、1万人以上の慢性ヒ素中毒患者が存在しています。このため、「ヒ素汚染緩和計画」により、UNICEFと協力して、住民へのヒ素に関する情報や知識の普及、井戸の汚染状況調査と代替水源の確保、患者の認定と治療に必要な無償資金協力を行っています。また、ベトナム最大の都市であるホーチミン市では、市街地の大部分の標高が2~3mと低い一方、排水施設が不足していることから、特に雨期に浸水被害が頻繁に発生しており、さらに、放流された未処理の下水による運河や排水路の水質汚濁が著しい状況にあります。このため、「ホーチミン市水環境改善計画」では、円借款により、市街地の中心地区における排水能力を強化するとともに、下水の収集、処理施設を整備し、運河等の水質を改善することにより、浸水被害を防止、軽減するとともに、都市環境や住民の生活衛生面を改善することとしています。さらに、セネガルでは、20年以上にわたり、無償資金協力による給水施設建設が実施されてきましたが、これらの施設を適正に維持管理していくため、すでに建設された109か所のうちから対象を選定して、給水施設の維持管理手法に関する啓蒙、普及体制を整備するとともに、住民による水管理委員会の運営体制確立を目的として、「安全な水とコミュニティ活動支援計画」を通じた技術協力を行っています。
図表III-10 水と衛生分野の地域別供与実績


馬車から直接給水できる車両給水所(セネガル)