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第2章 日本のODAの具体的展開
第1節 重点課題別の取組状況
1.貧困対策や社会開発分野への支援
(1)基礎教育

 基礎教育への支援は、人づくりを国づくりの基本としてきた日本の教育経験を生かすことができる分野として、外務省、文部科学省、JICAを中心とした関係組織の間で連携して具体的な取組を進めています。
 日本は、2002年に発表した「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)」に沿って基礎教育分野での協力を強化しています。BEGINでは、[1]教育の「機会」の確保、[2]「質」の向上、[3]「マネージメント」の改善、の3分野を重点分野としています。

図表III-6 基礎教育分野の主な案件

基礎教育分野の主な案件

図表III-7 現職教員枠の職種別・地域別派遣数

現職教員枠の職種別・地域別派遣数


 教育の「機会」については、初等・中等教育における教育施設の建設・改修や学習教材の供与等を通じ、児童の教育へのアクセス及び教育環境の改善に貢献しています。その協力の主な形態としては、無償資金協力が中心となっています。具体的には、2002年度において、全世界で約55万人の児童が日本による学校建設、教材配布、教室機材の提供を通じて裨益しており、その内約30万人がアジア、約23万人がアフリカの児童となっています。
 「質」の向上では、理数科教育への支援や学校の管理運営能力の向上への支援を行っています。日本の教育経験からすると、理数科を含む教育の成果は特に教員の能力によることが大きいことから、教員研修、教育法や教材開発の改善に重点を置いています。理数科教育をはじめとするこれらの支援は、1990年代から積極的に展開してきており、日本の特徴的な支援の1つとなっています。例えば、ケニアに対しては1998年より、「中等理数科教育強化(SMASSE)」プロジェクトを通じ、同国の全国71県のうち9県を対象に、中央研修及び地方研修の2段階方式による現職教員への研修を行っています。このプロジェクトは、「教員中心から生徒中心の授業」を目指したものとして、教育の現場で認められるに至り、2020年までに工業化を達成するという目標を掲げているケニア政府からも、工業化に欠かせない人材育成に資するプロジェクトであるとの評価を受けています。こうしたケニアにおける経験や成果は、アフリカ近隣諸国の関心を集め、ケニア教育省のイニシアティブにより、2002年6月、理数科教育に関するネットワークがアフリカ13か国の教育行政官たちの間で立ち上がりました。また、2001年度に創設された青年海外協力隊の「現職教員特別参加制度」により、2002年度は63名の現職教員が途上国へ派遣されるなど、教員が自らの経験を活かしつつ世界各地で途上国の教育の質の向上に貢献しています。2003年度には、56人の現職教員が新規に派遣される予定です。
 「マネージメント」の改善では、教育政策、教育計画の策定や教育行政システム改善への支援を実施しており、「質」の向上への支援と並び、日本の教育経験を生かして途上国の教育開発に貢献できる分野の1つと言えます。日本は、マラウイに対し、2000年より2年間にわたり「全国地方教育支援計画策定調査」を実施し、スクールマッピング、教育状況の調査と分析、これらに基づく県単位での教育開発計画の策定を行いました。この開発調査を通じ、マラウイの教育関係者のみならず、地域社会の参画も得て、幅広い層による計画づくりが実現し、今後はこの取組を全国に展開していくことが期待されています。
 これらの分野における協力を持続・拡大し、さらには、援助の経験が少ない分野にも着手していく目的から、文部科学省を中心に「拠点システム」*1などの国内体制の整備にも取り組んでいます。この「拠点システム」の立ち上げは、2002年7月に遠山文部科学大臣(当時)に提出された国際教育協力懇談会の最終報告に盛り込まれたもので、2003年度の発足が予定されています。
 これら3つの重点分野のうち、学校建設を中心とする「教育の『機会』」への支援額が日本の基礎教育分野支援額の全体の約7割以上を占めているのが現状です。現在、途上国が抱える基礎教育分野のニーズは、教員不足の解消、教員の能力開発、カリキュラム改善、HIV/AIDS教育等、多岐にわたっており、これらソフト分野への支援をいかに拡充していくかが今後の課題といえます。その際は、行政サイドの対応のみならず、児童の父母、コミュニティの参画を促進することが、より持続的かつ効果的な援助成果をもたらす上で不可欠な要素であると考えます。


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