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第3節 ODA大綱改定のプロセス
以上述べたとおり、日本のODAを巡る国内的、国際的状況がODA大綱の11年ぶりの改定につながりました。ODA大綱は、[1]新たな開発課題への早急な対応、[2]先進各国のODAへの取組強化、[3]様々な援助主体による開発協力と相互連携の深化、といった開発援助を取り巻く国際的潮流が大きく変化する中で、日本として国力に相応しい責任を果たすべく、厳しい経済・財政事情の中でODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を高めるとともに、幅広い国民の参加を促し、日本のODAに対する国内外の理解を深めるために改定されました。
今回のODA大綱の改定は、この11年の内外の状況の変化を踏まえつつ、一連のODA改革の集大成として、政府部内における検討に加え、有識者、実施機関、NGO、経済界等との数多くの意見交換、パブリック・コメントや公聴会など幅広い議論を行った上で実施されました。この節では、ODA大綱の改定プロセスについて説明します。
■国民と共に歩むODA
2003年度に実施されたODA大綱見直しの中で、外務省として最も留意したことは、大綱見直しプロセスにおける透明性の確保と多様な援助主体を含めた国民参加の促進をいかに確保するかということでした。大綱見直しは、2002年12月に川口外務大臣から正式に発表され、2003年3月14日の対外経済協力関係閣僚会議において、「ODA大綱見直しの基本方針」が示され、そこで、「ODA総合戦略会議における議論を踏まえるとともに、実施機関、NGO、経済界等からのヒアリング、パブリック・コメント等幅広い国民的議論を十分に尽くしつつ検討を行った上で、2003年中頃を目途に対外経済協力関係閣僚会議における審議を経て、最終的な結論を得る」ことが打ち出されました。国民から広く意見を聞くことを重視した理由は、まず、日本国内外の人々とプロセスを共有することにより、ODAに対する問題意識を共有することにありました。そして、対話を通じて日本の国際協力戦略を明確に発信し、日本のODAが適切に評価されることを望んでいたからです。結果的に、過去のODA政策立案過程と比較して例のない形で広く国民各層からの意見を聴取しつつODA大綱の改定が進められました。以下に、国民参加の促進の観点から見直しのプロセスの概要を見ていきます。

ODA大綱公聴会(福岡)
図表I-10 ODA大綱に関する関係各方面からの意見聴取

政府は、外務省を中心とした政府内部における検討に加え、有識者、実施機関、NGO、経済界等との数多くの意見交換、さらに、パブリック・コメントや公聴会等幅広い議論を行った上でODA大綱の改定を行いました。2003年3月14日に開催した対外経済協力関係閣僚会議において「ODA大綱見直しの基本方針」が示され、それまでの論点整理が行われるとともに、その後の議論が促され、外務省内でドラフティング作業が開始されました。そして、ODA総合戦略会議におけるODA大綱の見直しの論点整理作業と並行する形で、関係府省庁と連携しつつ、実施機関、NGO、経済団体、学会、在京各国大使館等と幅広い意見交換をしながら、協議・修正を繰り返し行いました。その後、12府省、与党3党の合意を取り付け、政府原案が出来あがり、7月には、その原案に対するパブリック・コメントの受付を開始しました。コメントの受付は8月に締め切られましたが、合計204件に及ぶ意見がインターネット等を通じて寄せられました。意見の中で、最もよく出されたものは、国益とODAの関係、アジア重視の是非、対中国ODAの見直し、そしてジェンダーの視点の強化といった点で、いずれも政府原案を作成する過程において特に議論された論点でした。加えて、大阪、東京及び福岡の3か所において公聴会を行い、NGO関係者、社会人、学生等様々な参加者からODAに対する疑問や意見を直接頂きました。外務省としてはパブリック・コメント及び公聴会における意見を公式の記録として残し、ODAに対する貴重な意見として受け止めました。そして、それら意見も踏まえて政府原案を修正し、8月25日ODA総合戦略会議において議論した後、最終政府原案を確定、対外経済協力関係閣僚会議を経て、8月29日に新ODA大綱は閣議決定されました。
新ODA大綱成立後、国内外の各界より今回の大綱見直しのプロセスについての評価が示されましたが、概ね肯定的な評価が示されたものの、一方で、新ODA大綱がどの程度まで既存の弊害を取り除き、ODAの効率化に資することができるのかは未知数であるといった意見も見られました。政府としては、新しい大綱のもとで、効率的、効果的な援助をいかに実施していくか、今後の対応が問われていると自覚しています。