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第2節 ODAを取り巻く国際的潮流の変化

 前節ではODA大綱の改定に至った国内的な背景を論じましたが、今回のODA大綱の改定にあたってはODAを取り巻く国際的な潮流の変化という要素も忘れてはなりません。2002年版白書でも論じた通り、冷戦の終焉に伴うグローバル化の一層の進展と国際環境の変化により、新たな開発課題が生まれており、先進各国もその対応のための取組を強化しています。日本の援助もこういった新しい状況を踏まえて考え直す必要がありました。

1.新たな開発課題、新しい発想の出現

■貧困問題の深刻化
 1990年代に入り、東欧、旧ソ連諸国などの旧東側陣営の国における自由主義経済市場への移行、貿易・投資の規制緩和、そして情報通信技術の飛躍的発達などにより、人間の往来や経済活動が地球規模で行われるようになりました。このようなグローバル化の進展は世界経済の成長や生活水準の向上といった果実を生み出しました。東アジアでは、経済成長とともに、1日1ドル未満で生活をしている人口が、1975年の7億人から2000年には2.8億人にまで減少しました。一方で、経済成長や生活水準の向上は均しく世界で実現されたわけではありませんでした。例えば、サブ・サハラ・アフリカでは、多くの国で貧困問題が深刻化し、他の途上国との経済格差が拡大するといった現象が起こっています。また、アジアに関しても、南アジアを中心に依然として世界最大の貧困人口を抱える地域となっています。現在でも1日1ドル未満の絶対的貧困の下に生活している人々は世界に約12億人以上いると見積もられており(注)、貧困問題の深刻化に対処することが急務となっています。

■平和の構築の重要性
 冷戦後の国際社会においては、民族・宗教・歴史等に根ざす対立が政治的、経済的な思惑とも絡み顕在化し、地域・国内紛争が多発するようになりました。その結果、大量の難民・避難民が発生したり、児童が戦闘行為に参加させられたりといった人権侵害の問題が生まれ、人道援助が必要となっています。また、紛争は長年の開発努力を瞬時に失わせ、膨大な経済的損失を生み出します。そこで、緊急人道援助、紛争終結後の復興・開発支援、そして紛争予防・再発防止といった「平和の構築」が重要な課題となってきました。そして、「平和の構築」は紛争の原因への対応や、紛争終結の促進、紛争被害からの復興支援、再発防止等の支援といった異なる段階に従って切れ目なく実施される必要があるものです。そのような様々なニーズに応えるものとしてODAの果たす役割が注目を浴びています。

■人間の安全保障の視点
 近年、騒乱や紛争の結果、経済基盤のみならず、政治、社会制度といった国の基本的枠組みが破壊され、政府が存在しない、もしくは政府の統治能力が弱体化した国や地域の人々への支援が重要となっています。そうした国家に住む人々にとっては、自らを紛争、貧困、飢餓、安全や教育・保健の欠如といった脅威から守ってくれる「政府」「国家」が存在しないという現実に直面しています。また、時として「政府」「国家」がその国民を迫害する、という場合もあります。これらの人々が、生存、尊厳、生活を全うするためには、人間個人に着目した取組、すなわち「人間の安全保障」の視点に立った取組が不可欠であるとの認識が生まれました。人間一人一人を保護するのみならず、更にその能力を強化し、強靱な社会をつくり上げていくことにより、下から(ボトムアップ)の国づくりを進めようとするものです。
 人々を襲う脅威は、人、モノ、カネ、情報の移動を自由にしたグローバル化の進展により多様化、複雑化しています。武器、薬物の密輸、人身取引をはじめとする国際組織犯罪や、テロ、そしてSARSHIV/AIDS等の感染症、といった国境を越える問題が深刻化する一方で、経済活動の高度化・拡大は、地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題やエネルギー問題を加速させています。このような一国では対処できない問題の深刻化も同様に個々の人間の生存、生活、そして尊厳に対する脅威となっており、「国家の安全保障」を補完するものとして、「人間の安全保障」の視点が重要となってきています。旧ODA大綱策定の際には見られなかったこのような視点を日本の援助にも反映させる必要が出てきました。



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