ブラジルの開発の遅れた貧しい地方では、助産婦もいない劣悪な環境の中で子供を産まなければならない現実がある一方で、豊かな家庭では医療に頼った帝王切開による出産を好む風潮があります。
こうした状況を改めるべく、ブラジル東北部のセアラ州で、JICAによって妊婦の人間性を重視した母子保健プロジェクトが96年から01年3月まで実施されました。
このプロジェクトは、「安全で人間的な(自然な)出産と出生」の達成を理念に、妊娠・出産に必要な知識と技術を広めることを目的として、セアラ州内の医師、看護婦、准看護婦等を対象に妊娠・出産をめぐるサービス向上のためのトレーニングや、人間的な出産と出生をすすめるリーダーを育成する「変革者養成コース」など、さまざまなレベルで人材育成を行いました。また、セアラ州内の参加施設における陣痛-分娩-分娩直後のケアを一貫して行うLDR(注)システムの導入、高齢出産などリスクの高い妊婦を出産前に入院させる「お産を待つ家」の新設、また、性感染症/エイズの感染予防のためコンドームの安価販売も実施しました。
このプロジェクトによって、産科施設の医療従事者が温かいケアを行うようになった結果、多くの女性が帝王切開ではなく自然分娩による出産を希望するようになりました。ここで構築されたシステムは他州にも普及しつつあり、2000年11月に当プロジェクトの集大成として出産・出生のヒューマニゼーションに関する国際会議を開催し、世界25か国からの参加者によって健康な出産の促進について活発な議論が行われましたが、参加者から人間性を重視した日本・ブラジル共同プロジェクトに関心が集まりました。また、ブラジル保健省が産科看護婦による出産ケアを奨励する省令を出すまでに至っています。
非常に成功したといわれるこのプロジェクトには、「光のプロジェクト(Projeto Luz)」という温かい名が付けられています。
ブラジルの地図
陣痛の緩和法を指導する専門家(写真提供:羽根田潔専門家)
「幸せとやすらぎ」(写真提供:きくちさかえ専門家)